ドラゴンクエスト「おおぞらをとぶ」5. 裏コード(サブスティテュート・ドミナント)
裏コードとナポリの和音
音楽理論講座 実践編「ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…」から「おおぞらをとぶ」の解説第5弾です。
前回、「おおぞらをとぶ」の冒頭4小節のベースラインについて解説いたしました。
今回は、「B♭7/9」と「E7/9」のコードに着目してみましょう。
解説対象楽曲
解説動画
1. 楽曲の構成について
2. キー(調性)について
3. コード進行について
4. ベースラインに着目する
5. 裏コード(サブスティテュート・ドミナント)(当記事となります)
6. ベースライン・クリシェ
7. ペダルポイント
8. ピカルディ終止
「ナポリの和音」に近い響き
3小節目の後半のコード「B♭7(9)」ですが、Aマイナースケール上のコード(ダイアトニックコード)ではありません。
Aマイナーキーのダイアトニックコードの2番目のコードは、通常「Bm7(-5)」ですが、
この和音のルート(ベース音)を半音下げる(下方変位といいます)と、
メジャーコードに変化します。これは、クラシックでは「ナポリの和音」と呼ばれるコードです。
(17世紀にイタリアのナポリの音楽で多用されたことに由来します)
「ナポリの和音」では、上の譜例のように、トライアドの3和音で、
なおかつ第1転回形(1st Inversion)として用いられることが慣例(外側が6度の音程になるので「ナポリの6」と言われます)なのですが、
この曲では、基本形(Root Position)で、なおかつマイナー7th(と9th)を加えた「B♭7(9)」の「ドミナント7th(9th)コード」の形となっているので、もう少し分析を続けてみます。
裏コード(サブスティテュート・ドミナント)
4小節目の「E7(9)」はAマイナーのダイアトニックコードの5番目のドミナントコード(ハーモニックマイナースケール上に成立)ですが、
その直前にくる「ドミナント7th」コードが「B♭7(9)」です。それぞれの関係を調べるために、
ルートの音に着目すると「augument4th(=diminish5th)」=「増4度(=減5度)」=「トライトーン(三全音)」となっています。
この「トライトーン」の関係は、五度圏の図でちょうど対角線上に位置する関係で、
一般にこのような「裏」の位置にあたるコードは「裏ドミナント(サブスティテュート・ドミナント)」と呼ばれます。
この2つのコードには、共通音による「トライトーン」が確認できますので、
表と裏という関係で、どちらもドミナントの機能を持っていることがわかります。
よって、ドミナント同士相互に置き換えたり、連結して使うことができます。
9thの響きと役割
この曲は、裏のドミナントから表のドミナント(サブスティテュート・ドミナントから、
プライマリー・ドミナント)へと進行していることがわかりましたが、
さらにそれぞれに9thのテンションが含まれてると考えられます。
裏のドミナントに当たる「B♭7(9)」の9th「C」音は、Aマイナースケールに所属する音を積み重ねた結果と一致し、
よりAマイナースケールの調性(トーナリティー)を強調している役割も感じられます。
A♭はG♯と同じ音ですので、ハーモニックマイナースケール上で考えると、ルートのB♭音以外は、スケール内の音といえます。
本来のドミナント(表のドミナント)に当たる「E7(9)」の9th「F♯」音は、Aマイナーの「メロディックマイナー上」に所属する音と一致し、よりメロディアスでクラシカルな雰囲気を、コードからも強調しているとも考えられます。
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記事の担当 侘美 秀俊/Hidetoshi Takumi
武蔵野音楽大学卒業、映画/ドラマのサウンドトラック制作を中心に、数多くの音楽書を執筆。
オーケストレーションや、管弦楽器のアンサンブル作品も多い。初心者にやさしい「リズム早見表」がSNSで話題に。
北海道作曲家協会 理事/日本作曲家協議会 会員/大阪音楽大学ミュージッククリエーション専攻 特任准教授。
近年では、テレビ東京系列ドラマ「捨ててよ、安達さん。」「シジュウカラ」の音楽を担当するなど多方面で活躍中。
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