ナチュラルマイナーにリーディング・トーンを追加する/音楽理論講座
VIIをリーディング・トーンに変えてみる
今回からいよいよ、マイナー・スケールが3種類ある理由に踏み込んでいきます。
前回の予告通り、ナチュラル・マイナーのダイアトニックコードを「コード進行の最小単位」=「Cadence(ケーデンス)=終止形」に当てはめて確認し、“戻ろうとする力”が働くリーディング・トーンを加えたバージョンも見ていきます。
27~31、45~50の講座を復習しておくことで、より理解が深まるはずです。
リーディング・トーン(導音)は、半音上のトニックに導く役割を持っています。
ナチュラルマイナーでは、トニックの半音下ではなく全音下のサブ・トニック(下主音 or 自然導音)でしたね。
これを半音上げて、リーディング・トーンにしてみましょう。
Key=Cマイナーで確認します。
まずは、ナチュラルマイナーと、この新たな並びのスケールを聴き比べてみましょう。
- Cナチュラルマイナー・スケール
C D Eb F G A♭ B♭ (C)
1 2 b3 4 5 ♭6 ♭7 (8)
- 新たなスケール
C D E♭ F G A♭ B (C)
1 2 ♭3 4 5 ♭6 7 (8)
新たに出来上がったスケールは、♭6と7の間に独特の雰囲気がありますね。
下記のように弾いてみると、非常にクラシカルなフレーズになります。
マイナー感をしっかりと持ちつつ、綺麗な流れですね。
この理由については後ほど触れますが、今はこの音がどのような変化もたらしているかを感じておいてください。
リーディング・トーンを追加したスケールによるマイナー・ダイアトニックコード
それでは、新たなスケールでダイアトニックコードを作成してみましょう。
作り方は、46回目のイメージと同じです。
スケールの音を、3度ずつ(一つ飛ばし)で重ねていきましょう。
- 3和音
- 4和音
このスケール上の5番目(ドミナント)のコードは、3和音ではリーディング・トーンを含むV、4和音ではリーディング・トーンとトライトーンを含むV7になります。
この箇所のみ、メジャーと同じであると言えます。
各マイナーのケーデンスによるの比較
ではここで、T→D→Tの「ケーデンス=終止形」に当てはめてみましょう。
ナチュラルマイナーのVm/Vm7からImに戻るものと、リーディング・トーンを追加したV/V7からImに戻るものを聴き比べてみます。
サンプルはKey=Cマイナーで、わかりやすくするために、途中に“タメ”を作っています。
- ナチュラルマイナー
Im→Vm→Im Cm→Gm→Cm
Im→Vm7→Im Cm→Gm7→Cm
終わった感じはしますが、メジャーのような緊張感や不安定さから解放された感覚はありませんね。
もちろんこの流れもよく使われますが、緩やかでぼんやりと終わる印象を与えます。
- 新たなスケール上のドミナント(V or V7)を使った場合
Im→V→Im Cm→G→Cm
Im→V7→Im Cm→G7→Cm
メジャーと同様に、緊張感や不安定さから安定感へと落ち着く流れをマイナーでも表現できました。
メジャーとは半音の動きが異なりますが、これでマイナーでも強い解決感を得ることができそうです。
まとめ
今回の学習ポイントをまとめると下記の通りです。
- ナチュラルマイナーのVIIを半音上げてリーディング・トーンにすることで、トニックへの導きが強化される
- リーディング・トーンを含む新しいスケールでは、5番目のコード(ドミナント)がVまたはV7となる
- 新たなスケールのドミナントコード(VまたはV7)は、メジャーのドミナントと同様に機能する
- ナチュラルマイナーのケーデンス(Vm→Im)は緊張感が少なく、リーディング・トーンを含むケーデンス(V→Im)は緊張感と解放感が強い
次回は、この違いを意識しながら、メジャーと同様の手順をマイナーでも一つずつ確認していきましょう。
記事の担当 伊藤 和馬/Kazuma Itoh
18歳で渡米し、奨学金オーディションに合格後、ボストンのバークリー音楽大学で4年間作曲編曲を学ぶ。
バークリー音楽大学、現代音楽作曲学部、音楽大学課程を修了。
日本に帰国後は、Pops・アニメソング・アイドルソング・CM・ゲーム・イベントのBGMまで、幅広い作曲・編曲の技術を身につけ作編曲家として活動している。