アボイド・ノート(回避音/後編)/音楽理論講座
IIm(IIm7)のアボイド・ノートについて
今回は再びアボイド・ノートに話題を戻し、前回学んだツー・ファイブの進行を踏まえ、メジャーダイアトニックコードの2つ目のコードにおけるアボイド・ノートの考え方について解説します。
こちらについては、大きく分けて2つの考え方があります。
まず、前々回に使用した「コードの構成音に対して半音上のスケール音を見つける方法」を用いて、IIm7を確認しましょう。
一見すると、IVmaj7と同様にアボイド・ノートは存在しないように思えます。
次に、Dm7にコードトーン以外の音(E、G、B)を追加してみましょう。
- Dm7 + E
- Dm7 + G
- Dm7 + B
それぞれ響きが複雑になりますが、特にBを加えると強い緊張感が生まれたように感じますね。
その理由は、m3rdの音(F)とBがトライトーンになっているためです。
第30回で触れましたが、トライトーンにはV7(ドミナントコード)の緊張感を高め、トニックへ戻る力をより強くするということでした。
これを踏まえて、前回のツー・ファイブ・ワンの進行を思い出してみましょう。
- Key=Cメジャー:IIm7 → V7 → I(Dm7 → G7 → C)
強進行かつトライトーンを含んだV7からトニックへの流れが、力強いコード進行を形成します。
これに対し、IIm7にBを目立つように混ぜてみるとどうなるでしょうか。
- Dm7にBを目立つように混ぜたもの → V7 → I
ツー・ファイブ・ワンの流れの強さが、少し削がれた感じがしませんか?
前々回、アボイド・ノートを「本来のコード機能を損なう可能性がある音」と定義しましたが、これがその典型です。
IIの段階でトライトーンの緊張感が生まれると、V7の緊張感が損なわれます。
このように、ドミナントコードの特徴であるトライトーンを他のコード上で目立たせると、ドミナントコードの効果が弱まるため、避けた方が良いというのが一つの考え方です。
一方、Fmaj7にBを加えた場合は、ルートとトライトーンの関係になりますが、アボイド・ノートとはされていません。
これはコード内の3rd(M3rdのA)に対するトライトーンではないため、という考えに基づいています。
- Fmaj7にBを目立つように混ぜたもの → V7 → I
こちらも特徴的な音ではありますが、Dm7+Bよりはドミナント感が薄いと感じられたかもしれません。
V7に含まれるトライトーンは3rdを含むものなので、特にドミナントとしての印象が強いと捉えることもできます。
ドミナント・コードV7の効果を薄めないよう、3rdのトライトーンは他での使用を避けましょう、というところで一線を引いてあると考えられます。
「IIm(IIm7)のアボイド・ノートはない」とする考え方
もう一つの考え方は、意図的に特徴的な音として使用している曲や技法、ジャンルが存在するため、単純にアボイド・ノートとしないというものです。
ただし、特徴的であるため、ケア・ノート(注意深く使用すべき音)と呼ばれることもあります。
いずれにしても、最初は無理に目立たせて使用しない方が無難と言えるでしょう。
アボイド・ノートの扱い方
メロディーとコードを解析する中で、アボイド・ノートやケア・ノートを積極的に使用している例を見つけることもあるかと思います。
その際は、なぜそれがカッコよく、心地よく聞こえるのかについても、考察してみましょう。
例えば、以下のようなポイントが考えられます。
- 非常に離れた位置(2~3オクターブ)で使用していたから?
- その音を特徴的に取り入れているフレーズ、ジャンルだから?
- その音を目立たせる方が雰囲気が出るから?
- 他のコードの様に聞かせて曖昧なサウンドにしたかったから?
以前も触れたように、アボイド・ノートは絶対に避けるべき音ではなく、その扱いも時代やジャンルによって変化しています。
アボイド・ノートは、回避音と言うよりも取扱注意の音と言えるかもしれませんね。
まとめ
今回の学習ポイントをまとめると下記の通りです。
- アボイド・ノートは本来のコード機能を損なう可能性がある音で、コードの構成音に対して半音上のスケール音が多い
- ツー・ファイブ進行では、IIm7にBを加えるとV7のドミナント効果が薄まり、進行の強さが損なわれる
- アボイド・ノートの考え方には、ドミナントコードのトライトーンを他のコードで目立たせないことと、意図的に特徴的な音として使用する場合がある
- アボイド・ノートは完全に避けるべきではなく、時代やジャンルによって変化するため、適切に使用することが重要
- 特徴的な音として使う場合は「ケア・ノート」として注意深く扱う
次回は新たなコード、「シックス・コード」について解説します。
記事の担当 伊藤 和馬/Kazuma Itoh
18歳で渡米し、奨学金オーディションに合格後、ボストンのバークリー音楽大学で4年間作曲編曲を学ぶ。
バークリー音楽大学、現代音楽作曲学部、音楽大学課程を修了。
日本に帰国後は、Pops・アニメソング・アイドルソング・CM・ゲーム・イベントのBGMまで、幅広い作曲・編曲の技術を身につけ作編曲家として活動している。