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「音楽業界への道標」 第29回 後藤貴徳さんインタビュー

ギタリスト 後藤貴徳さんへインタビュー

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後藤貴徳(ごとうたかのり) | profile
15歳よりギターを始める。ロック、フュージョン、ジャズ、ボサノヴァ、ポップス等、幅広い音楽シーンで活躍。
エースコンバット、アイドルマスター、NieR、涼宮ハルヒの憂鬱、らき☆すた、かんなぎ、セキレイなど数多くのゲームやアニメ作品に参加。

音楽業界への道標、第29回目となる今回はギタリストの後藤貴徳(ごとう たかのり)さんへインタビューを行いました。
アニメソングを中心とした様々な楽曲に参加する後藤さんですが、今回はプロギタリストになるまでの道のりをたっぷりと伺うことができました。ぜひご一読ください。

ーー今回は取材させていただきありがとうございます。まず現在の後藤さんのお仕事内容を教えてください。

様々な楽曲でギタリストとしてレコーディングに参加したり、最近だと舞台でライブ演奏をしたりなんかもしています。またレッスンも行なっています。

ーー後藤さんはかなりお忙しくされていらっしゃる印象です。

どうなんでしょう…。でもゲームが大好きなので、合間でゲームしたりもしていますよ。
だからギタリストとしてゲーム作品に多数参加出来ているのはとても嬉しいです。

これまでの道のり

ーー後藤さんはいつ頃から音楽を始めたのでしょうか?

僕は元々実家が楽器屋で、親の勧めもあって小学4年生の頃からトランペットを始めたのが最初です。

ーー最初はトランペットからだったんですね。

その後中学2年生くらいからトランペットと並行してギターを始めました。
そしたらもうどハマりしちゃって、トランペットそっちのけで吹奏楽部の部室に置いてあったギターを弾いたりしていましたね。

ーー当時はどんな音楽が好きだったのでしょうか?

X JAPANとかBOØWY、COMPLEXなどは、友達が弾いていた影響で僕もよくコピーしていた覚えがあります。あとは聖飢魔IIや米米CLUBなど、主に邦楽をコピーしていました。

ギター参加作品 「お願い!シンデレラ」 / CINDERELLA PROJECT

ーーその後はどういった道を辿ったのでしょうか?

本当はギターの学校に行きたかったのですが、当時ちゃんと大卒学歴が取れる学校が殆ど無くて。トランペットが吹けたので、とにかく音楽の道に進みたくて、全く関係無くはないかな?と思って音楽大学に進学しました。でも大学を卒業してトランペットは辞めちゃいましたね。(笑)

ーーどうして辞めてしまったのでしょうか?

トランペットとギターの両刀で進んでも、どちらかに特化している人には勝てないと当時思っていたんです。今考えると少し勿体無い気もしますけどね。。。
あとは、トランペットに関しては仕事になるビジョンが僕の中であまり浮かばなくて。

ギターに関しては大学の頃から10人くらいレッスン生を抱えていたので、何となく「これでやっていけるんじゃないか」みたいな思いもあったんだと思います。

ーー結果的に音楽大学へ行ったことは役に立ちましたか?

うーんどうなんでしょう…学んだことはともかく、やっぱり音楽好きが集まる場所なので沢山繋がりは出来ましたし、色んな素晴らしい友達と出会って一緒にバンド活動を出来たりしたのは本当に良かったと思いますね。
初仕事も友人からの紹介だったので、そういった意味では無駄ではなかったと思います。

ーーちなみに音楽大学の卒業生は、皆さんどんな進路に進むのでしょう?

自衛隊の音楽隊に入ったり、教師になったり、普通の業種に就職する人も多くいます。

僕の場合はレッスン生も何人かいて、少しですがギターでの収益もあり、おかげさまでギターの評判もまあまあ良い方だったのでこのままなんとか食べていけるのではないかと当時思っていました。

ーーでは大学卒業後はレッスンのお仕事をしながらの生活だったんですね。

そうですね。卒業後にジャズギタリストの布川俊樹さんに師事し、そこで初めてちゃんとギターを習い始めました。

ーー習い始めたのには何かキッカケがあったのでしょうか?

それまではハードロックやヘヴィーメタルが好きで、ExtremeやMR. BIG、Metallicaなんかの早弾き系を好んで弾いていたんです。
でももっとカラフルな音使いをしたいな、と思っていた頃、Richie KotzenとGreg Howeの「TILT」っていうアルバムに出会いました。初めてそれを聴いたときにめちゃくちゃ衝撃を受けて、そこにジャズのエッセンスを感じたんですよ。
それで一旦ジャズに振り切って練習をしようと思い、布川俊樹さんに弟子入りしました。

ーーどのくらいの期間教わっていたのでしょうか?

3、4年くらいでしょうか。ライブのお手伝いをさせて頂きながら教わっていました。
本当に基礎の基礎からの練習だったのですが、意外とそれが難しくて。早弾きなんかは結構がっつり弾いてたんですが、Cメジャースケールのポジションもあんまり把握できていなかった。(笑)
そこで改めてギターの基礎からジャズ理論まで色々と教えて頂きました。

ーーその間、ご自身のレッスンもしながら…という生活だったのでしょうか?

そうですね。ただ実家のことや様々な事情が重なって、とてもレッスンの収入だけでは生きていけなくなってしまい、ガソリンスタンドでバイトしながらの生活でした。

バイトしていたら生徒とばったり会って、「先生何やってるんですか?」みたいなこともありましたね。(笑)
すごく悔しい思いをしましたが、笑うしかない、、、、みたいな。
この時期は本当に様々な事が重なって、世間の風当たりも厳しいものがありましたし、当時はこれ以上下がることはないってくらい本当に最悪の時期だったと思います。

ーープレイヤーだと特に、「どうやってプロを目指せばいいか分からない」という方も多いと思います。

僕の時代はインターネットも盛んではなくて、「何とか食べていけるものだろう」って漠然と思っていたんです。ギター雑誌を買って、「すごい上手くなればどんどん注目されてこういう雑誌に載って、でっかいライブのサポートが出来て…」みたいに考えていたので、とにかく上手くなればいいんだと思っていました。

ーー今こうして実際にプロギタリストになってみて、思うことはありますか?

ギターが上手に弾ける、巧い!だけではなくて、様々な能力が必要なんだと思ってます。
人とのコミュニケーションだったり、納期、約束を守る、遅刻しない等、、、こう言っている自分ではありますが、今でもめちゃくちゃ出来てないこともあるので今後も気を引き締めていきたいです。(笑)
それと、お仕事を任せて頂いている感謝を忘れないことですかね。

ギター参加作品 「硝子ドール」 / アイカツ!

ギタリストとしてのお仕事

ーー苦しい時期も乗り越えて今ではプロギタリストとして活躍する後藤さんですが、初仕事はどんなものだったのでしょうか?

大学を卒業して1年くらい経った頃、知り合いの紹介で、エースコンバット04の劇伴でギタリストを募集していることを知りまして。筆記試験や実演など数回のテストを無事パスして、演奏で参加させていただいたのが始まりですね。

ーーその繋がりで徐々にお仕事が増えていったんですね。

そうですね。たまたまその現場にMONACAの社長である岡部啓一さんもいらっしゃって。お声かけ頂いて、ニーアの楽曲他、MONACAの作品等にも多数参加させていただきました。

ーースタジオミュージシャンを目指す方は数多くいらっしゃると思うのですが、事前に身につけておいた方がいいスキルなどはありますか?

僕は最初すごく読譜が苦手だったんですが、現場をこなしていくうちにだんだんとスキルが身についていきました。だから事前にどれだけ準備出来るかというよりも、どれだけ実戦経験を積んで成長できるかだと思います。

ーーまずは飛び込んでみることが大事ということですね。

譜面を読む能力やアイディア力、技術力ってある意味自分を守るための手段でもあるんです。
収録時間が伸びてしまうと先方にご迷惑をおかけしてしまいますし、自分の体力もどんどん減っていきますからね。そうならないために上達していくというイメージでしょうか。

ーーレコーディングは宅録とスタジオ、どちらの方が多いのでしょうか?

半々くらいですね。アコギはスタジオでも宅録でもマイク録りしてます。
宅録の場合は自分のボードを通し、Fractal Audio Systems「Axe-Fx II」に繋いで、Studio oneに落とし込みます。
よく使うペダルは僕が開発協力させていただいたOvaltoneの「GD-13 version2.0」ですね。2台用意して、オーバードライブ用とディストーション用、それぞれ分けて使っています。

ちなみにライブのときはプリアンプ部分にAxe-Fx IIをかまして、FRYETTEのPS-1っていうパワーアンプを2台使ってステレオで鳴らしています。

Ovaltone GD-013 Version 2.0 Special Demo

ーーギターは何本くらい持っているのでしょうか?

普通のエレキが4本くらいと7弦ギターが1本、アコギが2本、ガットが1本と、あとは変わり種の楽器を数本持っています。
楽曲によって使い分ける形ですね。

ーー演奏を依頼される際、デモ音源はどのような形で届くのでしょうか?

ギターがある程度入った状態だったり、ギターアレンジは全てお任せ状態だったりと様々です。ギターアレンジを任される場合は「ここはこういう感じで」っていう風に文章で要望が書かれているケースが多いです。
納期も1週間くらいのときもあれば数時間しかなかったりと、案件によって様々ですね。

ーー演奏データはどういった状態で渡すのでしょうか?

自分で音をチョイスして作り込んだものとドライ音、2つをお渡しするようにして先方に選んでいただいています。
ただやっぱりギタリストの作る音が好まれるのか、作り込んだ音が採用されるケースが多いですね。最近だとディレイやリバーブ等の空間系も入った状態で渡すケースも増えてきました。

テイクに関しては3パターンくらい作り、選んで使っていただく形をとらせてもらっています。

後藤さんのこれから

ーーこれからプロのギタリストを目指す方は、どんな活動をしていけばいいと思いますか?

SNSやYouTubeなど新しく出てきたツールを使って、どんどん自分を発信していくべきだと思います。
僕もTwitterのフォロワーさんの演奏動画とかはよくチェックしてますし、僕が弾いたソロをコピーしている人の中でもオリジナリティが垣間見えたりするとすごく魅力的に見えます。

ーー後藤さんは自身が担当した楽曲の反応はチェックする方ですか?

結構しますね。(笑)
やっぱり気になるところですし、悪い意見もあるかもしれないけど、いい反応があると本当に嬉しいですし次のモチベーションにも繋がりますから。

ーーギタリストにとってのオリジナリティはどうやって出していけばいいのでしょうか?

勝手に出てくるものだと思っています。僕の場合はトーンに独特のモノがあるらしいのですが、周りから言われて初めて自分でも認識して、っていう感じなんです。
ひたすらカッコいいギターを模索していると、だんだん自分の好きな音やフレーズが決まってくるんです。それは諸刃の剣でもあるんですけどね。
自分で「これだ!」と思うよりも、周りからどう受け止められているかがオリジナリティだとと思っています。

ーーありがとうございます。それでは最後に、後藤さんの今後の活動について教えてください。

いま頂いているご縁を大切にしながら、これからも沢山の方々に出会い、様々なお仕事を経験しながら今後もギタリストとして生きていければと思っています。

ーーありがとうございました。

ギター参加作品 ACE COMBAT ZERO OP

取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)

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profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。

ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue