目次を見る

「飲食店で音楽をBGMで流す場合の手続」クリエーターのための音楽著作権(ビジネス編)

音楽著作権記事担当の高木 啓成弁護士よりご挨拶

music_law_7

こんにちは。弁護士の高木啓成です。

「飲食店で音楽をBGMで流す場合、どういった手続が必要で、どのくらいのお金がかかるんですか」という質問を受けることがあります。

これは、著作権法のいろんなテーマに関わってきますので、この機会にここで解説しようと思います。

1.演奏権の問題

まず、そもそも、飲食店でCDを流すことは、著作権法上、著作物を公衆に向けて「演奏」することに当たるので、「演奏権」の問題になります。

CDを再生することも「演奏」に当たる、ということは、基礎編の第7回で説明しました。

ですので、著作権者に無断で飲食店でCDを流すことは演奏権侵害になってしまいます。

そこで、JASRACに楽曲の使用を申請する必要があります。

JASRACへの申請は1曲1回単位でも可能ですが、使い放題の包括契約も選択できます。
飲食店のBGMの場合はいろんな楽曲を使用することが通常ですので、包括契約を選択することがほとんどだと思います。

この場合の料金は、下記の表のとおりです。年間契約をすれば、年間6000円でJASRAC管理楽曲が使い放題ということになります(500㎡までの飲食店の場合)。
月額換算すれば500円ですので、思ったより安いのではないでしょうか?

music_law_7_11
※JASRACウェブサイトより引用(http://www.jasrac.or.jp/info/bgm/)

2.複製権の問題

ただし、ここまでの話は、あくまで、市販のCDをそのまま流す場合の話です。

CDをPCでリッピングしてプレイリストを作って、PCやスマートフォンで再生する場合は、「複製権」の問題が出てきます。

CDをPCにリッピングすることも、スマートフォンに楽曲を移すことも、著作物を「複製」していることにほかなりません。
ですので、「複製権」の侵害になってしまいます。

musc_law_7_2

基礎編の第10回で説明したように、私的使用の目的でリッピングしたりスマートフォンにデータを移転するのであれば複製権侵害にならないのですが、飲食店でBGMとして利用する目的であれば、残念ながら私的使用の目的とはいえません。
ちなみに、「もともとは私的使用目的でPCやスマートフォンに複製した楽曲を、あとから店舗のBGMで利用する」という場合も、やはり「複製権の侵害になってしまいます(著作権法49条)。

「じゃあ、JASRACに申請してリッピングするか」ということになるのですが、実は、「複製権」については、JASRACと包括契約をすることはできません。
BGMとして使用する曲を、1曲1曲、個別に申請しなければならないわけです。
これはちょっと現実的に難しいですね。

3.原盤権の問題

さらに、「原盤権」の問題が出てきます。

CDをPCでリッピングしたり、スマートフォンにその楽曲を移すことは、その「音源」を複製していることになるので、原盤権の複製権侵害にもなってしまいます。

musc_law_7_3

原盤権も、著作権と同様に、私的利用目的であれば複製権侵害にはなりませんが、飲食店でBGMとして利用する場合は私的利用目的とはいえません。

そして、「原盤権」については、「著作権」の場合と異なって、JASRACのように「ここに申請すればいい」という管理団体がありません。

それぞれの楽曲の「原盤権」を管理しているレコード会社などに、許諾を求めなければならないので、現実的ではありません。

ところで、「あれ?CDをそのまま再生する場合も、「原盤権」の「演奏権」の侵害になるんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。

でも、「原盤権」には「演奏権」のような権利がないんです。なので、CDの音源を複製せずにそのまま再生するだけの場合は、どんなに大人数のイベントで再生しても、「原盤権」の侵害にはならないのです。

4.まとめ

以上のように、飲食店で音楽をBGMとして流す場合、CDをそのまま再生する場合はJASRACと包括契約をすれば済むのですが、リッピングした楽曲の場合はきちんと権利処理することは難しいということになります。

ちなみに、USENなどの楽曲は、あらかじめJASRACの権利処理されていますし、原盤権の問題も生じませんので、そのままBGMとして使用することができます。

どうぞ、ご参考にしてください。

次回は、またテーマを変えて、違う話をする予定です。どうぞお楽しみに。

「記事の担当」高木 啓成 弁護士

高木啓成

高木 啓成/Hironori Takaki
DTMで作曲活動中。logicユーザー。ロックとダンスミュージックが得意。
弁護士として、エンターテインメント関係の法務、企業法務や個人の法律問題を扱う。


楽曲配信中 : http://www.tunecore.co.jp/artist/hirock_n
TwitterID : @hirock_n
InstagramID : hirock_n
Soundcloud : soundcloud.com/hirock_n

アクシアム法律事務所 : https://axiomlawoffice.com