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「音楽業界への道標」 第32回 田中 祐輔さんインタビュー

Ovaltone 田中 祐輔さんへインタビュー

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音楽業界への道標、第32回目となる今回はギターエフェクターのブランド「Ovaltone(オーバルトーン)」へ取材いたしました。
兄弟で製品の製造・会社経営をしており、本インタビューでは兄である田中 祐輔(たなか ゆうすけ)さんを中心に、普段はなかなか知ることの出来ないエフェクター製造の裏話をたくさん聞くことが出来ました。
ぜひご一読ください!

ーー今回は取材させていただきありがとうございます。ギタリストにはお馴染みのOvaltoneですが、会社自体はいつ頃設立されたのでしょうか?

会社としてはちょうど8年目に入ったくらいです。ただそれ以前にも個人的にエフェクター製作はしていたので、それも含めるとおそらく10年くらいかなと思います。

ーーエフェクターといえば数多くの種類がありますが、Ovaltoneでは現在何機種ほどリリースされているのでしょうか?

生産終了品を含めるとオリジナルは30種類くらいだと思います。基本的には歪み系、あとはブースターなどがメインですね。

ーー実際にエフェクターを開発する際は、どのようなことを考えて制作されているのでしょうか?

「そのエフェクターがどういった使われ方をするのか」というのはかなり意識しています。
例えばスタジアムクラスで使われるものであれば音が散らないようなものが求められるかと思いますし、宅録などをメインに使用することを想定したものであれば、バッサリとローカットしたものの方がいいのかな、とか。
ターゲットと音作りは分離できないものだと思いますね。

ーー本記事はDAWを扱う方が多く見ていると思うのですが、ギターを宅録する場合も、エフェクターは使うべきなのでしょうか?

元々エレキギターという楽器はアナログ機材に接続されることを想定して設計されています。そして大部分はその開発された当時の背景を現代にも引き継いでいます。もちろんそのままインターフェースに直接繋いでもいいのですが、上記のような背景を考えるとどうしても音が張り付くように薄くなってしまったり、本来のポテンシャルを発揮出来ない場合が多いです。
例えばPC内でアンプシュミレーターを使うような場合は、「エフェクターなどを使ってギターから見たアナログ的環境を整えてあげた上で音を作り、それをPCに送る」というような考え方で音作りしていけば、より理想の音に近づけるのではないかと思います。

積極的な音作りの場合はプリアンプや歪み系、ギター本来の音を最適化するといった方向性であればブースターやバッファなどをかまして音を作っていくのがいいと思います。

エフェクターが出来るまで

ーーOvaltoneはギタリストの中でもかなり人気なブランドですが、その理由もやはり「誰がどこで弾くのか」という点を想定して開発しているという部分が大きいのでしょうか?

そうかもしれません。プロからアマチュアまで、色んな人の演奏やピッキングの癖などを研究したりもしています。

またもう一点、開発に当たって意識していることとしては、「厳しさと優しさの間」みたいなところを狙って作っているんです。
言葉にするとなかなか難しいんですが、ここでいう「厳しさ」とは「初心者には扱いが難しく、上手い人が弾くことでポテンシャルが発揮される」という意味で、「優しさ」は逆に「誰が弾いても同じ音になる」というものです。
この塩梅が非常に難しいんですが、狙っている部分としては「初心者が弾いても80点の音になり、上手い人が弾くと120点以上の音が出せる」というようなエフェクターを心がけて制作しています。

ーー開発していく中で、ある程度回路を組まないと出音が試せないと思うのですが、やはり開発したけどお蔵入り…なんてこともあるのでしょうか?

そうですね。ゴミになっちゃうことも沢山あります。
でもそこで得た経験を他で活かすことが出来れば、その失敗も決して無駄にはならないので、ちゃんとそれまでの過程は覚えておくようにしています。

また最近では、コンピューター上で回路をシミュレーションした結果の波形を見て、ある程度音の予測がつくようになってきたので、以前よりはだいぶ楽になったと思います。

ーーではある程度音の予測がついてから、実際に組んでいくわけですね。

ただもちろん理屈では表現出来ない部分も沢山あるので、色々と調整する必要はあります。
あとはハンダの種類やアースを取る位置によっても全く音色が変わってくるので、本当に奥が深い世界だなと思いますね。

ーーエフェクターには基本的にいくつかツマミがついていますが、このパラメーターはどうやって決めているのでしょうか?

エフェクターの場合、やろうと思えば回路のどの部分でも可変できる、つまりツマミとして機能させることが出来るんです。
色々な部分を可変させてみて、「この部分であればこの機種の根本的な音色は変わらず、表現の幅を広げることができる」という場所を見つけてそこを表に出してあげるようなイメージです。

ーーエフェクター製作は、1つ作るのに大体どのくらいの時間がかかるものなのでしょうか?

機種によって異なりますが、1つずつという感じではなく、ある程度まとまった数を1ロットとして、1か月を目安に製作しています。
最初の頃は1台作るのにも何日もかかっていたんですが、色々とやり方を工夫して色んな技術を取り入れて…という風に、徐々に体制を整えていきました。

これまでの道のり

ーー田中さんがエフェクター制作を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

最初は大学のサークルなどでバンド活動をしていて、働きつつバーやライブハウスで演奏したり、スタッフとしてツアーを回っていたりしていました。
僕はギタリストだったのですが、ライブをするときはいつもアンプ直だったんです。でもアンプって持ち運びが大変だし、かといってエフェクターでタッチのニュアンスがちゃんと出るものも無いし…と思って、自分で使う用に作ってみようと思ったのが最初です。

ーー「買う」ではなく「作る」という発想だったんですね。

当時はそんなにエフェクターの種類もなくて、アンプっぽいニュアンスが出せるものも見当たらなくて。
ちょうどその頃自作ブームみたいな流れもあって、自分にも出来るんじゃないか…というところで始めました。

ーー元々電気工作の知識などはあったのでしょうか?

いえ、ギターの中身をちょっと弄ってみたりするくらいでした。

インターネットで公開されていた回路図を参考に作り始めたのですが、最初にコピーしたのはZ-VEXのSuper Hard Onっていう、すごく簡単な回路図のエフェクターです。

ーーその後いつ頃から本格的に制作を始めたのでしょうか?

最初の頃はこれで食べていこうなんてことは全然考えていなかったんですが、制作していくうちにどんどん楽しくなっちゃって。
色々なものをコピーするうちにだんだん仕組みが分かってきて、「こういう音が出したいならこうすればいいのではないか」という知識と経験がどんどん溜まっていったんです。
そうして作ったものが結構周りの評判も良くて、これを売っていくことが出来るのではないかと考えたのが、28歳くらいの頃ですね。

ーーそこから会社を立ち上げ、兄弟で経営していったんですね。

最初の頃は本当に大変でした。作った分だけ赤字になるくらい製作の効率も悪かったですし、「製品を売る」と考えたときに、やっぱり音だけじゃなくてプロモーションやビジュアルなども大事になってくるので、そういった研究をしたりとか。
会社経営もありますし、本当に徐々に徐々にと成長していったような形です。

今ではありがたいことに沢山の方が使ってくれていて、口コミでもどんどん広がってくれている状態です。

ーー製品デザインやプロモーション動画などもかなりこだわっているように感じます。

デザインもやっぱり音に関連付けられたものでないといけませんし、カメラ映りはもちろん、楽器店に並んだときの見え方なども考えてデザインしています。どんなに音が良くても、まずは手に取って試してもらわないことには始まらないですからね。
製品紹介動画も海外の動画などを参考にしつつ、自分たちで作っています。

ーーOvaltoneのエフェクターはどちらかと言うとハイエンド系ですが、価格設定などはどうやって決めているのでしょうか?

そこは結構迷うところなのですが、採算という面ももちろんありますし、メーカーの「継続性」も視野に入れないといけません。
数年後に潰れてしまっていたら、気に入って買ってくれた人を困らせてしまいますからね。
値段を下げて良心的なイメージを押し出していく方法もあると思いますが、そうではなくメーカーとしての発展を通して恩返ししていったり、サポートなど誠意ある対応をしていく方が重要なのかなと考えています。

これからへ向けて

ーー田中さんは、好きなことで生きていくために大事なことは何だとお考えですか?

よく「好きなことを仕事にするのは良くない」って言いますけど、それはどうなんだろうって思うんです。
好きなことは目一杯した方がいいと思いますし、色々我慢してやりたくない方向の音楽を続けるくらいなら、趣味でも良いのでやりたい方向の音楽をした方が良いのではないでしょうか。そうすると活力も出てきますし、逆に良い結果に結びつく可能性も出てくるのではと思います。

ーーありがとうございます。それでは最後に、田中さんのこれからの目標について教えてください。

もっと製品の種類は増やしていきたいなと考えています。
また海外にも目を向けていきたいですし、国内でも幅広い方に受け入れてもらえる製品、逆に一部の人にだけ刺さるようなピーキーなものなど、どんどん幅を広げていきたいですね。

ーーありがとうございました。

8-bit bonanza samples

取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)

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profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。

ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue