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「音楽業界への道標」 第19回 中村俊介さんインタビュー

株式会社しくみデザイン 中村俊介さんへインタビュー

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音楽業界への道標、第19回目となる今回は以前ご紹介した新世代楽器「KAGURA」を開発・デザインしている株式会社しくみデザインの中村俊介(なかむら しゅんすけ)さんにお話を伺って参りました。製品の開発秘話やこれからの音楽がどう変化していくのか等々、沢山の興味深いお話をお伺いすることができましたのでぜひご一読ください!

楽器が弾けないから作りました

ーー本日はお忙しい中ありがとうございます。中村さんは株式会社しくみデザインでどのようなお仕事をされているのでしょうか?

会社創業より代表取締役を務めています。会社を立ち上げた最初の頃はシステムの開発なども行なっていましたが、現在は優秀なエンジニアがいるのでそちらに任せています。

ーー製品としてはどのようなものをリリースされているのでしょうか?

以前sleepfreaksでも紹介していただいたAR技術を使った楽器アプリケーション「KAGURA」をはじめ、「Springin’(スプリンギン)」というiOSで動くビジュアルプログラミングアプリの開発なども行なっています。Springin’はコードを書かなくても自分が作りたいと思うアプリを作ることができるんです。もちろん音も扱えるので、簡単な楽器や音を使ったアート作品も作れます。
しくみデザインはもう設立から13年経っているので自社のプロダクトも複数あるのですが、一番多いのはB-to-Bというか、依頼を受けてクライアントの広告を制作したりアーティストのライブ演出をしたり、リアルタイムに映像と音を作って遊ぶ場などを提供したりもしています。

*B-to-Bとは?*
Business-to-businessの略で、製造業者(メーカー)と卸売間、または卸売と小売間など、企業の間での商取引のこと。

ーー自社製品をリリースしつつ、その製品自体を活用して様々なサービスを展開しているんですね。KAGURA自体は開発してどのくらい経つのでしょうか?

僕が学生の頃に作ったものが最初なので、もう15年くらい前ですね。
その頃のKAGURAは今とは違ってメディアアートみたいなものでした。画像処理をして映像を投影、動きに合わせて音が変化するという根底は今と変わらないのですが、当時はシステム側で用意した映像や音を演奏してもらうようなシステムでした。

ーーそんなに前から開発されていたんですね。もともと中村さんは何か楽器を演奏したりされていたのでしょうか?

いえ、僕自身は全く楽器が演奏出来ないんですよ。
結構それをコンプレックスに感じていて、ギターなんかも買って練習したんですが全然ダメで。
そこで「自分でも演奏できる楽器を作ろう」と思ったのが開発のきっかけです。その方が僕にとっては簡単だったんです。普通は練習する方が正しいと思うんですけどね(笑)

ーーその発想の転換はなかなか出来ることではないですね…。中村さんは学生時代プログラミングを専門的に学んでいたのでしょうか?

いえ、専門はデザインです。名古屋の大学に通っていたときは建築デザインを学んでいたんですが、子どもの頃からプログラミングも趣味としてやっていました。だから学生時代にはアルバイトでCADのソフトウェア開発の仕事もしていたんです。
大学卒業後は、一年間の大学院浪人を経て、九州芸術工科大学の大学院(現 九州大学芸術工学研究院)に入学し、そこから色々なものを作り始めました。

ーーなるほど、だからKAGURAもビジュアルにとても凝っているというか、洗練されたデザイン・インターフェイスなんですね。

そもそもしくみデザインの始まりがシステム開発会社じゃないんですよね。製品を開発したいというよりは”新しい体験を生み出す手段”としてテクノロジーを使っている感じでしょうか。ただ僕らが実現したい新しい体験を生み出すためにはテクノロジーが必要だったので、会社スタート時からメンバーにエンジニアはいました。そしてそのエンジニアが今もKAGURAを開発しています。

常にエンターテイメント性を優先しています。

ーーKAGURAという名前にはどんな意味が込められているのでしょうか?

もともとは漢字で「神楽」という名前でした。
日本神話のお話になってしまいますが、天照大神が天の岩屋から外に出るきっかけを作るために、どんちゃん騒ぎをしたのが神楽の由来で、日本の神話上における最初の歌であり、踊りであり、エンターテイメントなんです。そこから名前をとって、テクノロジーにおける神楽を作りたいと思って命名しました。

ーーとても素敵ですね。最初に見たときは、海外展開を視野に入れたネーミングなのかなと思っていました。

作った当初は自分の作品としか思っていなかったので、これを使って世界に進出というのは考えていませんでした。
いざ製品をリリースするときは、ネーミングを変えようかすごく悩みましたね。検索したら別のものがヒットしちゃうっていうのもありましたし、それまでB to Bで活用していたシステムも「神楽」だったので。
でもこの製品の性質上、日本より海外にウケるんじゃないかっていうのもあって、そうなるとやっぱり”日本発信”っていうのは伝えたかったんです。トヨタやホンダも3文字ですし、神楽自体も別に変な意味があるわけでもなかったので、名称を「KAGURA」にしてそのまま使うことにしました。

アートからツールへ

ーーKAGURAは開発自体は15年前からということでしたが、実際に製品として発売されたのは2年ほど前です。これにはどういった経緯があるのでしょうか?

会社を立ち上げた当初はKAGURAは楽器としてではなくインターフェイスとして、主にB-to-Bの製品にシステムとして組み込むかたちで使用していました。街頭に置いてあるデジタルサイネージにカメラが付いていて、そのサイネージの前で体を動かすと、その動きに合わせた演出が起きるものってもう今は普通ですが、あれを初めて広告で用いたのがしくみデザインなんですよ。そしてそのベースにあるシステムがKAGURAなんです。

転機となったのは2014年、インテルからRealSenseという3Dカメラが発表され、それを使用したアプリケーションのコンテストを開催するというお話があったときです。当時はまだRealSenseではなくPerCと呼ばれていたんですが。
KAGURAを開発した当時は僕一人でしたが、今は優秀なエンジニアやデザイナーがいる。だから開発当時のコンセプトはそのままに最新の技術とトレンドをちゃんと活かせば絶対良いものができると思ったんです。そこで改めて作り直してそのコンテストに応募しました。
そうしたらグランプリを受賞できたんですよね。開発当時は「面白いけどよく分からない」っていう状態でしたが、こうやって評価もいただけるようになり、「これはいけるだろう」と。だったら出さなきゃもったいないじゃん! ということになり、そこから製品化に向けてさらに開発を進め、クラウドファンディングによる支援も受けて、2017年3月に製品版の販売をスタートしました。

ーーそういったお話を聞くと、「時代がKAGURAに追いついてきた」ような印象さえ受けますね。

KAGURA開発当時の2000年くらいってPCのインカメラなんて付いていないのが当たり前だったし、Webカメラも性能の低いものでした。しかもオンラインでソフトを販売するという文化も根付いていませんでしたからね。
「音楽×映像」という分野が急激に発展してきたタイミングだったので今なら出来る!っていうのが大きかったです。

ーー新たに製品として開発しなおすにあたり、一番力を入れたのはどういった部分でしょうか?

KAGURAをアートからツールへ移行することです。
開発当時のKAGURAはアートとして始まったので、音のセットから映像まで全部システム側で作っていたんです。でも、演奏をする人が用意されたものをパフォーマンスするだけっていうのに限界を感じたんです。いかにユーザーやアーティスト、プレイヤーが自分で好きなように構築してパフォーマンス出来るかっていう「ツール化」しないと意味がないなと考えたんです。僕がどれだけ頑張っても広がりが無いというか。だから僕は会社を作るときにアーティストを辞めようと思ったんですよ。

ーーそれは大きな決断だったかと思います。

KAGURAを使ったアーティストが生まれる土壌を作ってしまえば、知らないところでものすごいアーティストが生まれるかもしれない。僕はアートじゃなくてデザインがしたいんだと気づいたんです。
ただ、単純にだれかが困っていることを解決するんじゃなくて、新しい体験をツールから生み出し、そこから発想やアートを生み出してほしいなっていう気持ちは引き続きあって。「しくみデザイン」という会社名もそういう思いから命名しました。

ーーだから自分でカスタマイズできるシステムに変わっていったんですね。僕も実際に使用してみて、すごく洗練されたデザインでとても使いやすさを感じています。

参考となるソフトがあったわけではないので、デザインはとても大変でした。ちゃんとデザインができる・開発ができる人がいたおかげでいまのカタチになりました。

そんなに大きくない組織で作っているっていうのと、10余年間ずっとクライアントに対し色んな作品を作り続けてきた中で「こういうモノを作ったらどんな反応が返ってくる」っていう感覚の蓄積はあるので、ビジネス的な考えと自分のやりたいことを両方取り入れることができるように考えながら制作をしています。

ーー今後KAGURAはどのような進化をしていくのでしょうか?

直近で言えば、7月のアップデートでビジュアル的な要素が大幅に強化されました。それから外部DAWとの連携をやりやすくしたり、アーティストからのフィードバックを元にUIを変更したり、クリエイター目線でのアップデートも行いました。これはひきつづきやっていくことです。
そしてもっと大きなところで言うと、僕はKAGURAを文化にしたいと考えています。今はKAGURAを演奏している人を見ても、「あの人何をしているんだろう?」っていう感じなので、まず「KAGURAっていうのはこういう楽器で〜」っていう説明から始めなくちゃいけない。またあまりにもキレイに演奏出来てしまうと「当て振りじゃないの?」と思われてしまう懸念もあります。
もっとKAGURAが広まっていて「KAGURAを使っていることが当たり前」っていう状況を作らなければいけないと考えているので、KAGURAをピアノやギターと同じくらい、みんなが知っている楽器にしたいですね。

ーーそのための取り組みとしては、どういった動きがありますか?

まずは「ちゃんとプロが使える」という部分です。相対性理論のライブでも使用してもらったりもしたのですが、プロアーティストがKAGURAを使ってカッコいい演奏をすることで、それに憧れてKAGURAを始めてくれる次の層が出てくるのではないかと思っています。
そのために現在はAbleton liveとの連携など、DAWの拡張機能としての役割に力を入れています。

ーー確かにDAWには搭載されていない部分ですよね。

音楽制作の機能はDAWの方が優れているのでそちらを使ってもらい、DAWには無いビジュアル的・パフォーマンス的な要素をKAGURAを使って表現してもらえればと思っています。

ーープロのクリエーターにとってはとても可能性が広がりますね。

もう一つ目指している方向性としては、もっともっとKAGURAを身近なものにしたいという部分です。
元々が「楽器が弾けないから」という理由で作ったものですし、たくさんの方々が気軽に表現できるようなツールにしたいですね。ゆくゆくはモバイル版なんかもリリースしたいなと思っています。

プロ向けに機能をガンガン詰めていくのと、今まで自分はパフォーマンスなんてできないと思っていた人が演奏できるような手軽さの両方を実現できるように開発を進めています。

ーーDAWユーザーとしてはKAGURAがVSTやAU版としてリリースされるのか気になるところです。

具体的なプロジェクトとしてはまだ無いんですが、考えてはいます。
ただ「プラグインをKAGURAに読み込めるように」するのか「KAGURAをプラグインとして読み込めるように」するのか、そこは今後KAGURAがどう広まっていくかによって変わってきます。
どのタイミングで何を実現するのかっていうのはちゃんと決めないといけませんから、やはり様子を見ながら決めようかなと思っています。

ーー7月〜8月末にかけて、KAGURAアーティスト育成プロジェクトが始まります。こちらはどういった趣旨なのでしょうか?

色んなアーティストにKAGURAを使ってもらうという取り組みは今後も進めていくつもりなのですが、やはり著名なアーティストが使用するとどうしてもアーティストに目がいってしまうんですよね。それももちろん大事ですが、やはりKAGURAじゃなきゃ出来ない表現をしてほしいんですよ。結構特徴的なツールなので、絶対これじゃなきゃ出来ない表現があるはずなんです。
KAGURA同士を繋いで複数人がPCの前に並んでパフォーマンスしたり、クリエイターとパフォーマーのユニットで表現したりと可能性は無限大にあります。
そうやってKAGURA発のアーティストを生み出せたらいいなと思い、コンテストを開催することにしました。

音楽と映像の未来

ーー中村さんから見て、音楽と映像は今後どのような関係性になっていくと思いますか?

やっぱり切っても切り離せない存在になってきていますよね。アーティストはやることが増えて本当に大変だなと思います。今後は音楽にも映像要素っていうのは絶対入ってきますよね。
音楽もYouTubeやSHOWROOMなどの配信サービスを使って映像で見るのが当たり前になっているので、音楽は聴くばかりのものではなくなるだろうなと思っています。
またシンセのように「デジタルでしか出せない音」が出現したように、「映像とセットじゃなければ表現できない音」っていうのも絶対出てくると思います。
それ単体では全然感動が伝わらないけれど、映像と音を同時に聴くことで感動するような。それは映画とはまた別というか、ストーリーありきではなく本当に視覚情報として、という意味です。
今後どんどん進化してくVRやARの分野でもやっぱり音と映像ってセットなので、どんどんお互いが溶け合っていくと思いますね。

ーー中村さんが今注目しているサービスやシステムはありますか?

僕、実は最先端技術を使って…っていうのはそんなに好きじゃないんですよ。発想自体は無限大にあるんですが、その発想を実現しようとするとき、僕は「今あるもので何が出来るだろう?」と考えるんです。どちらかというと技術はあとからついてくるものですよね。
例えばKAGURAの場合は「楽器が弾けない、じゃあ作ろう」というところからスタートして、それを実現するために僕が使えた技術っていうのがカメラと画像処理だったんです。そしてWebカメラの性能やPCのスペックが開発当初とは比べ物にならないくらい進化したことで製品化ができた、つまりKAGURAがアートからツールへ転換することができました。
本当はKAGURAも現実空間と同化させたいけれど、それは今の技術では出来ないのでとりあえず今は画面の中に収まっている、というような感じですね。

ーーなるほど。技術を使って発想を生み出すのではなく、元々ある発想を技術で解決するという順番なんですね。それでは最後に、中村さんの今後の目標を教えてください。

僕はとにかく新しい文化を作りたいと思っています。
音楽も多分そうだと思いますが、何かを作るときって誰かが喜ぶのを考えて作ると思います。でもそうやって色々考えて作っている自分が一番楽しんでいると思うんです。
その作る喜びをどうやったらみんなが体験できるんだろう?今まで作品を作ったことがない人が、どうすれば”作る側”に回れるんだろうっていうことをいつも考えています。
そういう意味でも一番分かりやすいのがKAGURAなんですけど、KAGURAもまだまだ音楽をかっちり作っている人でなければ演奏が難しい部分もあるので、もっと簡単に表現することができるように、でも努力しないと越えられない壁っていうのも残していきつつ…といったように進化させていくことができればなと思っています。

ーーありがとうございました。

取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)

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profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。

ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue