「音楽業界への道標」第27回 日向秀和さんインタビュー
ベーシスト 日向秀和さんへインタビュー
音楽業界への道標、第27回目となる今回はストレイテナーやNothing's Carved In Stoneのベーシストとして活躍する日向秀和(ひなたひでかず)さんにお話を伺って参りました。
日本のベースヒーローとして、様々な場で活躍する日向さんがどういった思いでバンド活動をしているのか等々、貴重なお話をたくさん聞くことができました。
ーー大変お忙しい中取材させていただきありがとうございます。それではまず、日向さんの現在の活動を教えてください。
主なバンドとしてはストレイテナーとNothing's Carved In Stoneで、他はFULLARMORっていうバンドだったり色々とやっています。
あとはサポートやレコーディングのお仕事もやっていますし、セッションにもよく参加しています。
ストレイテナー – 「Braver」MUSIC VIDEO
ーー日向さんは本当にいつも引っ張りだこで、かなり多忙なイメージがあります。
そうですね。たまにひっくり返ってます。(笑)
ただセッションに関しては、僕の中では練習の場でもあり息抜きのような感覚です。そこでビジョンが開けることも多いですし、新たな発見やプレイを見つめ直す機会にもなっているので貴重な時間ですね。
ーー1日に10時間以上弾いている、というような日も多いのではないでしょうか?
たまにそういう日もあります。基本的に練習があまり好きではないので、バンドリハーサルとかはたまに「早く終わったらいいのに…」と思う時もありますけどね。(笑)
ーー日向さんは音楽はいつ頃から始めたのでしょうか?
中学1年生からなので、13歳からですね。姉がエレキギターを持っていて、その影響で自分も始めました。その後親にIbanezのベースを買ってもらった覚えがあります。
高校に入ってからはフォークソング部に加入し、初めてバンドを結成しました。
「フォークソング部」っていうのは名ばかりで、みんなロックバンドをやっていましたけどね。
上級生の上手いバンドに入ったりもして、その頃から掛け持ちでいくつかバンドをしていました。
ーー当時はどんな音楽を聴いていたのでしょうか?
JUN SKY WALKER(S)とかTHE BLUE HEARTSとか、パンクっぽい感じのバンドが流行っていて僕もそういう音楽をよく聴いていました。あとはRed Hot Chili Peppersなんかもその頃同時に聴き始めましたね。
ーー日向さんはいつ頃からプロを目指すようになったのでしょうか?
実はプロを志したことは一度も無くて。気づいたら今に至る…っていう感じです。
友達同士で楽しみながらバンドをやって、その知り合いが紹介してくれたところに行って…みたいに、プロを目指すというよりひたすらベースを楽しむことによってどんどん広がっていきました。
だからメンバー募集の欄に「当方プロ志向で…」なんかは一回も書いたことないです。
Nothing's Carved In Stone 『Spirit Inspiration』
ーー日向さんの周りにもそういう方が多いのでしょうか?
うーん、そうですね。ストレイテナーも初期の頃から「かっこいい音楽を貫いてやっていく」みたいな意志がすごく強かったので。出会いとタイミングによるものも大きいと思いますけどね。
ーーベースから離れた時期などはありましたか?
一度ありましたね。20歳くらいの時に母親が焼き鳥屋を出店して、そこの店長をしていたんです。その時はこの仕事で生きていこうと思っていたので、2年間くらいはベースに触っていなかったと思います。
ーーそこから何か戻るキッカケがあったのでしょうか?
その店に飲みに来た友達が、ART-SCHOOLと関わりの深いギタリストを連れてきて、僕のことをベーシストだと知っていたらしく「ちょっとバイト感覚でベース弾いてみない?」って誘ってくれて。そこで木下理樹君と出会ったのがベース再開のキッカケです。
そこからART-SCHOOLのベーシストとして活動を始めました。
ーー導かれるべくして導かれたように感じます。
今振り返るとそう思いますね。でも当時からベースは滅茶苦茶弾いてましたし、出身の町田界隈では僕の名前を知らない人はいないくらいにはなっていたので、そういう理由もあったのかなと思います。あ、もちろんワルとしてじゃなくベーシストとして、ですよ。(笑)
ーーそういえば、日向さんといえば「町田のヤンキー伝説」が色々と…!
いえいえ、全然ですよ。仲間と、たむろしたり、楽器を触りながら喋ったりとかは結構してましたけどね。
ベース練習法
ーー日向さんは日頃どんな練習をしていたのでしょうか?
自分の好きな音楽をひたすらコピーしていました。一つ一つ攻略していくのがゲーム感覚みたいで楽しかったんだと思います。
ーークリックを使った練習などはされていましたか?
いえ、クリック練習は一回もやったことないですね。
自分の好きなリズムパターンをドラムマシンに打ち込んで、それに合わせて練習…とかはすごく楽しかったです。
Pedal Board Academy ひなっち(日向秀和)
ーー日向さんのベースはグルーヴはもちろん音使いも特徴的ですが、音楽理論などは勉強されたのでしょうか?
全然していないです。
ベースに対するこだわり
ーーベースラインを作るときはどのような意識で考えるのでしょうか?
単純に言ってしまえば、「ちゃんと聴こえる」ベースにしたいなと思っています。そのためにレンジをどんどん狭めたり、歌のメロディーに対して裏メロを鳴らすようにしたりすると、やっぱり聴こえてくるようになるんですよ。
でもそういうのは意識的にというか、「やっているうちに勝手にそうなっていた」っていう感じかもしれないです。
ーーバンドの楽曲でベースラインを考える際、デモはどのような状態で送られてくるのでしょうか?
基本的にはベースラインが無い状態のものからスタートすることが多いです。
ストレイテナーの場合はホリエくんの弾き語りからですし、Nothing's Carved In Stoneはみんなでデモを持ち寄ったりしながら作っていきます。
ーー日向さんはこれまでずっと4弦ベースを使用していますが、これには何かこだわりがあるのでしょうか?
4弦ベースだからこそ完結しているというか、多弦ベースだとベース本来のポテンシャルが無いような気がするんですよね。それならドロップチューニングして使った方が楽器として”鳴っている”ように感じるというか。そんなに5弦ベースを弾いたことがないので、なんとなくな印象ですけどね。
ベーシストとしての考え方
ーー長くベーシストとして活動していく中で、日向さんが考えるご自身の持ち味は何だと思いますか?
”オンリーワンのプレイ”でしょうか。「これはひなっちじゃないとダメだ」っていう風に思わせる何かを持つというか、「自分らしさ」っていうのはすごく考えます。
プレイだけじゃなくてファッションやライフスタイルも、ひなっちでしかできないビジョンっていうのにこだわっています。
ーー様々なベースを使い分けたり、多くのエフェクターを使いこなす姿も日向さんならではだと思います。
ベースに関しては、最近だとどの場面でもLAKELANDの自分のシグネイチャーモデルを使うことが多いです。
エフェクターに関しては、同じくシグネイチャーのベースプリアンプ「BRICK DRIVE BDI-1HH “極”」、あとは「pandaMidi Solutions Future Impact I.」っていうベースシンセも最近のお気に入りです。
ーーピック弾きに指弾き、スラップ奏法と、演奏方法を使い分けるときはなにか基準がありますか?
それぞれ”ノリ”が違うので、楽曲に合わせて使い分けます。あとは音の硬さを狙うときはピックを使ったりします。
あえてペラペラなピックを使ってローが全く無いような音を出してみたりと、楽曲によってアプローチを変えていくのが最近の主な手法です。
ーーデモを聴いた段階である程度音色なども頭に浮かんでいる状態なのでしょうか?
そうですね。奏法やどんな機材を使うのかということも浮かんでいます。
実際にベースラインを作るときもその時のインスピレーションを大事にしていて、そのレスポンスの速さをどう高めていくかっていう部分に一番興味があります。
ーー聴いた瞬間に、すでに脳内で全てイメージできている状態ということなんですね。
例えば、TK from 凛として時雨のレコーディングに参加させてもらった時なんかは、デモを一度も聴かずに現場へ行って、その場で聴いた一発目のフレーズを頭に叩き込んでレコーディングしました。その時は2曲3時間くらいでレコーディングが終わりましたね。
そのレスポンスを高めていくっていうのがロックであり、あらゆるジャンルでフィックスさせていくっていうのが「ひなっちベース」なんです。
TK from 凛として時雨『unravel (short version)』
ーーそれは凄まじいスキルです…。
レコーディングしながらTKも笑ってましたもんね。ただその代わりライブの時はすごく大変です。(笑)
ーーライブ中はどんな思いで演奏されているのでしょうか?
「自動演奏モード」って呼んでるんですけど、基本的に何も考えないっていうことを意識しています。考えちゃうと遅いというか、ダイレクトじゃないというか。
やっぱり一番旬なものを届けたいので、全く何も考えていない状態でグルーヴしてるっていうのが理想の状態です。
ーーそういったこだわりというのは、やはり活動していくなかで身についていったものなのでしょうか?
そうですね。
あとZAZEN BOYSで2〜3年くらい活動していた期間は、今のひなっちを構築するにあたって大きな影響がありましたね。プレイや考え方もそうですし、プレイヤーとしての独立したメンタルだったりとか、ベースもいちプレーヤーとして前に出てもいいんだ、とか。
向井くんから教わったその肌感覚は、今の活動でもすごく生きています。
ーー普段インプットとして心がけていることはありますか?
僕はあまりロックは聴かなくて、ブラックミュージックが大半ですね。
好きなベーシストはラリーグラハムで、高校の時から僕のベースヒーローで神様みたいな人です。
これから音楽業界を目指す人へ向けて
ーー日向さんは、バンド活動を長く続けるためには何が大切とお考えですか?
やっぱり譲り合うというか、一歩引くことが大事かなと思います。
あんまりストイックになりすぎても行き詰まっちゃうし、独りよがりなこだわりじゃなくて「バンドに必要だからこそのこだわり」に高揚感を持つようにしています。
ちょっとクールになって、当事者なんだけど「自分をプロデュースする」っていう立ち回りができるといいんじゃないかと思いますね。
ストレイテナー – From Noon Till Dawn
ーーバンドマンとして生きていきたいと考える方も多くいらっしゃると思いますが、これから出てくる人たちはどんな活動をしていけばいいと思いますか?
よく「プロになるにはどうしたらいいですか?」って聞かれるんですけど、それは絶対分からないと思うんですよ。情報も無ければ、一人一人やり方も違います。
だから「自分はこうなりたい」っていうのを強く持てるかどうかなんじゃないかなと思いますね。
その中で妥協もあるだろうし挫折もあると思うんですが、それでもどれだけ強い意思を持って長く続けていけるかっていうことが大切です。
あとはセミナーとかでもよく言ってますけど、「音楽を楽しむこと」が一番繋がると思います。「自分はこれしかない」っていう風に閉鎖的に考えてしまうと絶対に広がりが無くなってしまうし、自分自身が楽しいと思うことで人も集まってきて、その楽しさを伝えることができると思うんです。
そうやって活動していく中で自分の核となる部分を見つけていくっていう繰り返しが大事なんじゃないでしょうか。
ーーありがとうございます。それでは最後に、日向さんのこれからの目標を教えてください。
去年くらいからソロ活動を始めたので、継続してやっていくなかでどんどん活動の幅を広げていきたいですね。色んなプレイヤーさんやアーティストさんとも一緒にやりたいなと思っていますし、今後が楽しみです。
ーーありがとうございました。
Nothing's Carved In Stone「November 15th」
取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)
profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。
ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue