【リアルすぎる】今人気のエレキギター音源3つを徹底比較|ギターサウンドの打ち込みはこのレベルに到達
「クランチサウンド」に特化したギター打ち込みと製品解説
ギターの打ち込みは、他の楽器と比べてもDAW上で再現するのが最も難しい楽器の1つです。
特にクリーンとディストーションの中間に位置する「クランチサウンド」は、ニュアンスの表現が非常に重要で、リアルな再現を行うには細かな調整が必要です。
本記事では、クランチサウンドの魅力や特徴を解説するとともに、そのサウンドを打ち込みで再現する際のコツについて、3つのギター音源を比較しながら解説を進めていきます。
ギター音源プラグイン3製品の徹底比較 動画
比較内容について
今回の比較では、クランチサウンドを取り入れたロックギターをテーマに、「シンプルな打ち込み内容」でどれだけリアルなサウンドになるのかを検証しました。
ギターの打ち込みは1音単位でMIDI CCやタイミング、ベロシティなど、緻密に制御していくことで、 リアリティを高めることができますが膨大な時間を必要とします。
ここでは
- 演奏(フレット)ポジションの制御
- 各種入力支援機能の積極的な使用
- ハンマリングやスライドなどの基本アーティキュレーション
労力とクオリティのバランスを考え、上記3点を取り入れてできる限りシンプルな打ち込みを行っています。
クランチサウンドとは?
まず今回のテーマ、「クランチサウンド」について確認していきましょう。
クランチとはクリーンなサウンドとディストーションサウンドの中間に位置するサウンドで、軽く歪ませたような特徴を持っています。
▶︎エレキギターによるクランチサウンド
ディストーションに比べ、強弱やピッキングのニュアンスが大きく現れることから、打ち込みではニュアンス付けが難しく、高い音源のクオリティが求められます。
比較するギター音源について
今回比較する3つのギター音源は、どの製品も共通して
- 「テレキャスター」のライブラリであること
- 価格が200ドル未満であること
以上の2点を条件に選定しました。
Ample Sound「Ample Guitar」TC
Ample Sound社の「Ample Guitar」シリーズは、高品質なギター音源として知られています。
今回比較するのは、同シリーズのテレキャスターを再現した音源です。
この音源の特徴は、StrummerやRifferといった入力支援機能が豊富なことで、これらを使いこなすことで細かなニュアンスの表現が可能です。
Orange Tree Samples「Evolution」Texas Twang
Orange Tree Samples社の「Evolution」シリーズは、手軽に高品質なギターサウンドを得ることができる音源として人気があります。
この製品は、オクターブ奏法やピッキングポジションの調整など、細かな演奏の指定ができることが特徴です。
Impact Soundworks「Shreddage3」Telos
Impact Soundworks社の「Shreddage」シリーズは、リアルなギターサウンドを追求した音源として高く評価されています。
この製品最大の特徴は、実際のギター演奏に含まれる他の弦に触れた挙動を再現する「Ringing」で、これにより高いリアリティを実現できます。
以上の3つの音源を、クランチギターサウンドの打ち込みに適した設定で比較していきます。
アンプセッティングについて
まず初めにクランチギターサウンドを作る上で重要な、アンプのセッティングについて解説を行います。
今回のデモサウンドではクランチサウンドで用いられるアンプとして定番の「ビンテージマーシャル」を用いています。
同じマーシャルアンプでも80年代以降の機種では、ゲインを上げるとザラついたヘヴィなサウンドが特徴になってしまうので、選択には注意が必要です。
またアンプのゲインを適度に絞ることが肝心です。
ゲインを上げすぎるとサウンドが潰れてしまい、クランチサウンド特有のニュアンスが失われてしまいます。
高いベロシティの際には歪みが感じられ、ベロシティが低い際には歪みのないクリーンなサウンドが出る位のゲイン量に設定することがおすすめです。
▶︎弱くピッキングした場合のサウンド
▶︎強くピッキングした場合のサウンド
このように同じアンプの設定でも、強弱で音色が大きく変化するようにゲインを設定することがポイントです。
パワーコードの再現
パワーコードは、ロック・ギター演奏に欠かせない奏法の一つです。
まず初めに生演奏によるサウンドを確認してみましょう。
▶︎生演奏によるギターサウンド
今回比較した3つのギター音源は、いずれもパワーコードの再現に対応していますが、その入力方法には違いが見られました。
Ample Guitar
Ample Guitarは「Strummer」や「Riffer」を使用することでパワーコードを再現することができます。
Strummerではコードのボイシングやストロークのパターンを指定できます。
更にRifferでは個々の音に対してアーティキュレーションやレガートを設定でき、パワーコード中のスライドなどリアルな演奏感を再現することが可能です。
ただし、実際のギターのインターフェイスに沿った入力が必要なため、ギターに対する知識が必要になります。
Ample Guitarは最も詳細なコントロールが手早くできる音源と言えます。
▶︎Ample Guitarによるパワーコードのサウンド
演奏内容の入力は非常に行いやすかった反面、ミュート度合いの段階が少ない印象です。
またギターを左右に配置を行うダブリング向け設定を選択時には同一サンプルが連打される「マシンガン」現象が感じられました。
Evolution
Evolutionは、パワーコードの演奏に適したアーティキュレーションが専用に用意されています。
Ample GuitarのRifferのような入力を支援する機能はないため、スライド奏法の再現は手動で表現する必要があります。
しかし、ハンマリング奏法のアタック感が柔らかいことから、ノートを重ねて入力することでスライド奏法を表現することが可能でした。
▶︎Evolutionによるパワーコードのサウンド
サウンド自体はリアリティが高いように感じた反面、多くの箇所でマシンガン現象が発生しました。
これはTexas Twangがロック系ジャンルへの対応をメインとしたライブラリではないことが原因と考えられます。
Shreddage
パワーコードのアーティキュレーションが用意されていますが、スライド奏法の再現をパワーコード中に行うことができませんでした。
連続したハンマリングによる再現を試みましたが、自然なスライドを再現できなかったため、スライド箇所で一度サステイン奏法に切り替え、単音でスライドさせるという方法で表現を行いました。
この点で、他の2製品よりも、ピアノロール上で管理しなくてはいけない項目が多く、入力に手間がかかる印象と感じました。
▶︎Shreddageによるパワーコードのサウンド
他2製品に対し、マシンガン現象が発生せず同一ノートの連打が自然な印象です。
ストローク奏法の再現
海外ではStrumと呼ばれ、コードなど複数の弦を同時に演奏することをストロークと言います。
エレキギター、アコースティックギターを問わず様々な音楽ジャンルで伴奏として用いられる基本的な奏法です。
▶︎生演奏によるストローク奏法
今回比較した3つのギター音源は、それぞれ異なるアプローチでストロークの再現が行えます。
Ample Guitar
パワーコード同様、StruumerとRifferという2つのモードでストローク奏法を入力することができますが、Rifferではより詳細に「演奏する弦の指定」や「ストロークする速度」、「強弱」を視覚的に分かりやすく コントロールすることが可能です。
ただし、一度に表示できる小節数に限りがある部分や、再生箇所のコントロールが自由に行えないという難点も感じましたが、 1小節や2小節単位で入力を行うことでこの問題を解消できました。
▶︎Ample Guitarのストローク奏法
Rifferを使用した場合、生演奏に対してかなり近いニュアンスを手軽に表現できます。
Evolution
Evolutionは、豊富なストラムパターンを内蔵しているのが特徴です。
ストラムエンジンにより、ストラムのスピードやストラム時に演奏する弦を細かく指定し、パターンとして保存することができます。
保存したパターンはDAWのピアノロール上で、一つのノートで呼び出すことができるので、細かさと扱いやすさ両方を兼ね備えた設計と感じました。
▶︎Evolutionのストローク奏法
しかしコードチェンジとストラムのタイミングが同時に打たれている場合では、コードが切り替わる前にストラムが開始され音切れが発生してしまうことがありました。
実際のギター演奏同様に左手のノートを、コードが切り替わる前に前のめりで入力する必要があり、イベント(リージョン)単位のコピーペーストを行う際にはその点が手間と感じる場合も出てきそうです。
Shreddage
「STRUMMING MODE」を有効にすると、コードボイシングの入力と、ピッキング(ストラミング)を 個別のノートで行うことができます。
比較する3つの製品の中では、唯一コードボイシングに対してアシストする機能がなく、ギター特有のボイシングに適した和音を入力する必要があります。
この点でShreddageはギター演奏に対する具体的な知識がより求められる製品といえます。
▶︎Shreddageのストローク奏法
打ち込みには労力が必要ですが、その反面サウンドの質は高く、最も生演奏らしさが感じられます。
オクターブ奏法の再現
オクターブ奏法は、ギターの持つ音域の広さを活かした奏法で、同じフレーズを1オクターブ離れた音程で同時に演奏することで、厚みのあるサウンドを生み出します。
スライド奏法を併用し、リードフレーズなどを演奏する場面でよくみられます。
▶︎生演奏によるオクターブ奏法
Ample Guitar
Rifferでは各弦のピッチや演奏方法を詳細に設定できるため、オクターブ奏法に必要な2つの音程を別々の弦で演奏するように設定することが可能です。
また、ノートごとにスライド奏法を指定できるので、DAWのピアノロール上では難しい細かな打ち込みを直感的に行うとができます。
▶︎Ample Guitarのオクターブ奏法
ダブリングしない場合には、設定画面内のサンプルのサイクルモードを「Round Robin」設定することができ、これにより同音の連打でもマシンガン現象は抑えられています。
Evolution
Evolutionは、オクターブ奏法専用のアーティキュレーションが用意しており、最も手軽に表現が可能です。
さらに、パワーコードの入力時同様、ハンマリングによるスライド奏法の再現を組み合わせることで、直感的かつスムーズなフレーズの演奏が可能です。
▶︎Evolutionのオクターブ奏法
サウンドに雑味が少なすぎて、若干生々しさが感じられない部分はありますが、比較した3製品では最も短時間で入力が行えました。
Shreddage
一方、Shreddageには、オクターブ奏法専用のアーティキュレーションや入力支援機能が用意されていません。
そのため、オクターブ奏法を再現するには、一音ごとにトラックを分け二つのトラックを使用して打ち込む必要がありました。
二つのトラックに対しグループやバスを作り、そこにアンプシミュレータを適用しなくてはいけない点や、2つの弦のずれが自動で表現されないことから、手間や直感性は他製品の方が優れていると感じました。
▶︎Shreddageのオクターブ奏法
しかしサウンドについては、 他音源にはない入力されたノートとは別に、ランダムで他のノートを自動で追加する「Ringing」という機能により、実際のギター演奏における振る舞いが再現され、リアリティの高いサウンドになっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
それぞれの音源で長所・短所があり、最終的には使用頻度の高い奏法の、サウンドクオリティと打ち込みやすさを天秤にかけ選択することになりそうです。
またどの音源も生演奏と比較した場合、生演奏の再現という部分ではもう一歩と感じる部分があり、さらにリアリティを高めるためには一音単位での細かな打ち込みが必要と言えます。
ドラムやピアノ、ベースなどでは、商業流通している作品でも打ち込みのトラックが採用されつつありますが、今後ギター音源はその領域まで進化できるのか引き続きチェックしていきたいと思います。
今回使用した音源
記事の担当 宮川 智希/Tomoki Miyakawa
15歳でシンセサイザーの魅力に惹かれDTMを始める。
20歳よりサポートキーボーディストとして大久保伸隆氏(Something Else)を始め多くのステージで活動する傍ら、活動拠点を制作へとシフトする。
その後、音楽制作ユニットL75-3を結成し、同人、商業両面で音楽作家として活動を開始。
2013年より声優原由実氏への楽曲提供を皮切りに、永井朋弥氏(+Plus)楽曲で編曲、映画での劇伴制作、イベント内でのBGM制作と様々な制作の現場に携わる。
同人活動ではVocaloidを用いた楽曲を使用し、“Twilight of Small Planet”がニコニコ動画カテゴリーランキング5位を記録。
その他、docomo Xperia feat. HATSUNE MIKU内オフシャルコンテンツや東京IT新聞などのメディアに掲載される。
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- DTMのための音楽機材・ソフト紹介