目次を見る

ボイシング、アルペジオ、ロー・インターバル・リミット/音楽理論講座

コードを応用するために必要な基礎知識とテクニック

ここまで学んだ「メジャーのダイアトニックコード(3和音,4和音)」を実践的に使用する前に、もう少しだけコードについての理解を深めましょう。

今回学んでいただくのは、「ボイシング」「アルペジオ」「ロー・インターバル・リミット」という3つの項目です。

前回同様に、楽曲に合わせてコード進行を組み立てる際や、楽器のアレンジを行う際に役に立つ重要な知識となりますので、ぜひ身につけてください。

ボイシング(Voicing)

ボイシングとは、簡単に言えばコードに含まれる音をどのように配置するかということです。
前回触れたように、コードは基本形以外にも様々な音の配置で表現され、進行やアレンジ、あるいは使用する楽器に合わせて使い分けていくことになります。

ボイシングの分類には様々な考え方がありますが、まずは以下の2種類を押さえておきましょう。

  • クローズド・ボイシング(Closed Voicing)
  • オープン・ボイシング(Open Voicing)

それぞれ項目を分けて詳しく触れていきます。

クローズド・ボイシング(Closed Voicing)

以下のように、全てのコード構成音が1オクターブ内におさまっている配置を「クローズド・ボイシング」と言います。

「クローズド・ボイシングは『音の一体感』を強く感じる響きがしますが、高音域では音が密集しすぎて『窮屈な印象』を与えることがあります。また、低音域では構成音が近すぎるために各音が干渉し合い『濁った印象』を与えることがあります。

オープン・ボイシング(Open Voicing)

一方で、コードの構成音が1オクターブの音域に収まっていない配置を「オープン・ボイシング」といいます。

オープン・ボイシングは音同士のインターバルが離れているため各音が独立して聞こえやすくなり、広い音域をカバーすることで、聴感上ゆったりとした印象を与えます。

どちらのボイシングを選択するかは、求めるサウンドや使用する楽器によります。

前回出てきた、ギターでCメジャーのコードを弾く際の最もオーソドックスな音の並びはオープン・ボイシングでしたね。

クローズドとオープンの違いについては以下の動画も参考になりますので、是非ご覧ください。


アルペジオ(Arpeggio)

以下のようにリライトします:

アルペジオ(Arpeggio)は、ブロークン・コード(Broken Chord)=「分散和音」の一種です。アルペッジョと表記されることもあります。

ブロークン・コードとは、コードの構成音を同時に鳴らすのではなくタイミングを分けて鳴らす方法です。
この場合、音をランダムに演奏しても良いのが特徴です。

アルペジオは、コードの構成音を1音ずつ低いものから高いものへ(またはその逆に)順に鳴らす方法を指します。
しかし、近年ではブロークン・コード全般をアルペジオと呼ぶことも多いです。

一応それぞれの違いも知っておきましょう。
以下はアルペジオのサンプルです。

ロー・インターバル・リミット(Low Interval Limit)

ロー・インターバル・リミットをご理解いただくために、まずは2つのCmaj7コードをお聞きください。

1つ目は綺麗ですが、2つ目は同じコードとは思えないほど聞き苦しい響きですよね?

ピアノロールで確認してみましょう。

低音は、近い音同士で重ねた場合濁って響いてしまうことがあります。
それを防ぐ基準として、低音がどのくらい離れた音となら重ねても濁らないかの限界を定義したもの「ロー・インターバル・リミット」です。

一般的な定義としては、以下がそれぞれのインターバルの”限界”(最低域)となり、それより低くなると濁るとされています。

ここではC3を真ん中のドとします。

厳格な定義は楽器によって違ったりしますし、あえて濁るとされている音域を使用している楽曲もあります(ホラー系のBGMなど)。

とはいえ、やはりある程度の基準を意識しておくことは必要です。
作曲やアレンジをしている際に、響きが変だなと思ったらこのロー・インターバル・リミットを思い出してください。

まとめ

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • ボイシング:コードの音をどのように配置するかを示し、クローズド・ボイシング(音が1オクターブ内に収まる)とオープン・ボイシング(音が1オクターブ内に収まらない)の2種類がある
  • >アルペジオ:コードの構成音を同時に鳴らすのではなく、順番に鳴らす方法。ブロークン・コードとも呼ばれ、ランダムな演奏も許容される
  • ロー・インターバル・リミット:低音域で近い音を重ねると濁ってしまうため、どの程度の音程差が必要かを示す基準

次回は、ダイアトニック関連の解説に戻ります。
皆さんは音楽の勉強中に、IIm7やIVなど、ローマ数字を見たことはあるでしょうか?
ダイアトニックコードをより身近に感じられるようになる、大変優れた表記法です。
きっとマスターしていただけますので、どうぞお楽しみに。


記事の担当 伊藤 和馬/Kazuma Itoh

伊藤 和馬

18歳で渡米し、奨学金オーディションに合格後、ボストンのバークリー音楽大学で4年間作曲編曲を学ぶ。
バークリー音楽大学、現代音楽作曲学部、音楽大学課程を修了。
日本に帰国後は、Pops・アニメソング・アイドルソング・CM・ゲーム・イベントのBGMまで、幅広い作曲・編曲の技術を身につけ作編曲家として活動している。

講師のプロフィールを読む