「音楽業界への道標」第24回 帆足圭吾さんインタビュー
MONACA 帆足さんへインタビュー
東京都出身。バークリー音楽大学映画音楽学科卒業。
幼少の頃からクラシックピアノを始め、高校卒業後に米国へ留学。帰国後、2009年にモナカへ参加。(参加作品一覧はこちら)
音楽業界への道標、第24回目となる今回は有限会社モナカに所属する作編曲家、帆足圭吾さんへ取材しました。
アニソン好きなら知らない人はいないというほど大人気のMONACAで活躍する帆足さんですが、制作テクニックから心構えまで色々と面白いお話を聞くことができました。
ぜひご一読ください!
帆足さん流楽曲制作術
ーー今回はお忙しい中取材させていただきありがとうございます。帆足さんは現在どのようなお仕事をされているのでしょうか?
有限会社モナカにて作曲をしています。
アニメやゲームのBGMを担当することが多いのですが、歌モノを制作することもあります。
ーー使用している機材を教えてください。
MacでLogicを使っています。元々はDigital Performerだったのですが、MONACAに入ったあたりで乗り換えました。
音源はその都度新しいものを探したりするので「いつもコレ!」みたいなのはあまり無いですね。
オーケストラ音源だとSpitfire AudioとVIENNAが気に入っています。
ーーどのように使い分けているのでしょうか?
Spitfire Audioは部屋鳴りも含めて音が入っているイメージです。最近のオーケストラ音源の潮流ですね。
VIENNAは逆に結構ドライで、リバーブとかは全部自分でやってね、っていうスタイルの音源です。
これら二つを用途に合わせ、上手く重ねながら使っています。
ーープラグインは何か愛用しているものはありますか?
lexiconの製品は結構気に入っています。
あとはFabFilter Pro-Q 2もよく使用します。
(FabFilter Pro-Q 2)
ーー作曲はどのように進めていくのでしょうか?
曲を作り始める前にまず「何のために使う曲なのか」という部分をすごく意識します。
結構劇伴を担当することが多いのですが、先方がどういう感じの音楽を合わせたいと思っているのかを知ることが大切です。
例えばアニメ作品の場合は、そのアニメを観るターゲット層を考えて「こういう層のお客さんだったらこういう曲の方がいいかな?」みたいに考えます。
ーーターゲット層まで考慮するんですね。
もちろんある程度ユーザー層を考えた上でウチにお話が来ているとは思うんですが、もうちょっと踏み込んで考えて…みたいな感じですね。
「こういうアニメが好きってことは、このアニメも好きだろう」と予想し、色々とリサーチしてチェックします。
そうすると楽曲の方向性が見えてくるので、そのテイストを維持しつつ自分のカラーも出していけるように意識して制作しています。
ーー重要なポイントを抑えつつ、オリジナリティも出していくということですね。
そうですね。
そういったことを考えていき、頭の中である程度曲が鳴っている状態になったらアウトプットしていくといった流れです。浮かぶのは楽曲全部だったりサビだけだったりとケースは様々ですが、一部分だけの場合はそれを軸に制作していきます。
ーー音を鳴らしながら作っていくのではなく、一度頭の中に思い描いてからPCに落とし込むスタイルということですね。
何の音源を使うとか編成とかも決まっている状態まで考えるので、そこまでが結構大変です。
一回原型が出来たあとは、ピアノを弾きながらもっと面白いコード進行にしてみたりと手を加えることもあります。
ーー行き詰まったりすることはありますか?
いやもう行き詰まりまくりです。(笑)
そんなときはとにかく机に向かって頑張ります。
アニメ音楽の世界
ーー劇伴のお仕事は納期がタイトなイメージがあります。
そうですね。特にテレビアニメはかなりスケジュールが詰まっている場合が多く、「これを落としたら放送出来ません」みたいなケースもよくあります。
デッドラインは必ず死守するために、スケジュールをいただいた時点でレコーディング日程が決まるので、最後の方は本当に修羅場ですね。
ーー1つの作品で何曲くらい制作するのでしょうか?
1クール(12話前後)作品だと、大体50曲くらいです。それを1ヶ月〜1ヶ月半くらいで制作します。
ーーすごい曲数と日程ですね…。
急なスケジュールに対応出来るよう、先ほど話したリサーチの作業も日頃からしておくように心がけています。
僕は元々アニメやゲームが好きなタイプなのですが、普段作品を観る中で「この瞬間このシーンがすごく良かった」と感じたら何回も繰り返し観て色々研究します。
もちろん曲だけでなく画面演出など様々な要因があってこそだと思うのですが、自分が何故良いと思ったのかを解明することはとても重要だと思っています。
例えばバトルシーンで使う曲も色んなパターンがあるんですよ。
厨二的に盛り上げた方が良かったり、重厚な感じにしたり。作品のカラーによって、同じようなシーンでも全く違った曲になります。
「このシーンでこういう曲は珍しいな」と思ったら、作家さんの色が出ているのかそれとも違う意図があってそうしているのかな、とか。
サウンドトラックを聴くと作中で聴くイメージとは全然違っていたりとか、とにかく徹底的にリサーチします。
ーー今と昔で、アニメ音楽が変化していると感じることはありますか?
劇伴に関してはそんなに大きな変化は無いですね。悲しい雰囲気はマイナーコード、明るい雰囲気はメジャーコードっていう基本的な心理演出は変わりませんから。
ただその時代の風潮によって使っている音源が違ったりということはもちろんあります。
ーー劇伴における、実写作品とアニメ作品の違いはありますか?
音と映像のトータルバランスが全く違いますね。
あくまで個人的な見解なのですが、実写作品に比べアニメの方が画面の情報量が少ないんです。また設定も現実にはありえないファンタジー寄りの作品が多いですよね。
よって映像に対する曲の比重も大きい場合が多く、派手に盛り上げるような曲がマッチしやすいです。「現実にはないものを見せて欲しい」という作品の方向性であれば尚更ですね。
対して実写作品の場合は画面の情報量が多い分、少し薄めの曲がマッチしやすい印象です。
以前実写作品のお仕事をした際、試しに自分がアニメ作品用に作った曲を実写映像に当ててみたんですが、全然合わなくて。映像と音楽、どちらの主張も激しくてなんだかギャグのようになってしまったんですよ。
そういった感覚は多くの作品を観たり聴いたりしながら培っていきます。
ーー技術だけでなく、感覚を研ぎ澄ますことが大事ということですね。
技術的な部分は正直続けていれば習得することが出来ると思うんですが、やっぱりエンドユーザー目線というか、実際に観てる人がどういう気持ちになるんだろうと考えることが必要だと個人的には思っています。
人によって作品の受け取り方は全く違うので、「誰に対して届けるのか」というターゲットを明確にすることはとても重要です。
帆足さんのこれまで
ーー元々帆足さんはいつ頃から音楽を始めたのでしょうか?
僕は母親がクラシックのピアニストで、3歳くらいからピアノを始めました。
ただクラシックって「この作曲家はこうしているからこういう風に演奏しなさい」っていう決まりが多いんです。僕は自分が好きな風に演奏したい人間だったので、どうもそれが合わなかったんですよ。
それで高校生のとき別の道へ進みたいと思い、バンド寄りの音楽に傾倒していき、その後バークリー音楽大学に進学しました。
ーーバークリーへはどういったきっかけで進学したのでしょうか?
元々劇伴や洋楽が好きでその道を目指そうと考えていたのですが、国内で劇伴を専門で教えている学校が無かったんです。
それで色々調べたらバークリーを見つけました。
ーー海外へ留学するのはとても勇気が要るように感じます。
決断自体にはもちろん勇気が要りましたが、いざ行くっていう時は結構ワクワクしていた覚えがあります。
親も放任主義というか、「好きにやりなさい」と言ってくれたので。
ーー言葉の壁はどのように乗り越えたのでしょうか?
一応渡米する前に少しは勉強したのですが、いざ行くと全然通じなくて。そこからめちゃくちゃ勉強して1〜2ヶ月くらいである程度意思疎通が出来るようになりました。
僕は寮に入っていたのですが、周りの人たちに教えてもらったりテレビから流れる言葉で発音を覚えたりしていました。
ちゃんと聞き取れるようになるまでは授業を録音して、帰って必死に聞き返して…なんてこともしていましたね。
でもどんどんコミュニケーションが取れるようになったので、楽しい作業ではありました。
ーー帆足さんはバークリーに進学して良かったと感じる部分はありますか?
映画音楽家としての勉強をさせてくれたっていうところもありますが、文化の違う様々な人たちと遭遇できた経験はとても良かったです。
見解も広がりますし、音楽制作にもいい影響を与えてくれました。
国によってそれぞれ好みの音楽も全く違います。日本はメロディーで情感に訴えかけるような曲が多いのに対し、北米ではトラックメイキングや曲全体の雰囲気に重きを置いています。
どうしてこんな差が生まれたのか、などを考えるきっかけにもなりました。
もちろんどちらも素敵で良いものだと思っています。
ーーバークリー卒業後はどのような道を辿ったのでしょうか?
バンドのお仕事をちょこちょこやっていました。トータルで6年間くらいアメリカにいたことになります。
ーーどういったきっかけで帰国されたのでしょうか?
バーなどで演奏をしていたのですが、なかなか収益にならないのと、活動を続けるためにビザが必要だということになりまして。取得には莫大な弁護士費用が必要なんです。
そこでどうしようかな、と色々考えました。
もしバンドを続けるならアメリカにいた方が上手くいくと思っていて、作曲なら日本の音楽の方が好きなので帰国するべきかなと。
悩んだ結果、日本に戻り劇伴の仕事をしようと決断しました。
ーー帰国後は、何かお仕事の当てがあったのでしょうか?
それが全然無くて。(笑)
どうしようかなと思っていたところ、仲の良かった作家さんに「作家飲み会」みたいな飲み会に誘ってもらったんです。そこで仕事を探している最中だと話したところ、「MONACAの神前暁さんが助手を欲しがってるみたいだよ」という話を聞きまして。
それからご本人を紹介していただき、アシスタントとしてお仕事をさせていただくことになりました。
その後正式にMONACAに所属することになり…といった流れです。もう10年くらい前になります。
ーーMONACAでは幅広いジャンルの制作スキルが必要だと思うのですが、どうやって技術を磨いていったのでしょうか?
僕は元々映画音楽やメタルなど、シンフォニック系の音楽が好きで得意なのですが、打ち込み系のデジタルっぽいのはあまり得意ではなかったんです。
でも社長の岡部なんかはそっちの方が得意だったりするので、作っては聴いてもらい修正して…というトライアンドエラーを繰り返すことでジャンル幅を広げていきました。
自分一人でやっても良くならなかったと思うので、会社の中でダメ出ししてくれる人がいるというのはとてもありがたかったですね。
帆足さんのこれから
ーー帆足さんのこれからの目標を教えてください。
より良い作品を作っていきながら、今のお仕事を長く続けていければなと思っています。
やはり流行り廃りはありますし、色んな困難はあるので頑張って生き残っていければなと。
その上でお客さんに「この人じゃなきゃいけないんだ」と思っていただける部分を伸ばしていきたいですね。
前から応援してくださっているファンの方もいらっしゃるので、そういう方が評価してくれた自分の良さも残しつつ、時代に合わせたクオリティーアップをしながら新しい方向もどんどん伸ばしていきたいです。
ーーありがとうございます。それでは最後に、これから音楽業界を目指す方へ向けメッセージをお願いいたします。
例えば好きなバンド、アニメやゲームなど何でもいいのですが、その作品の「どこが良いと思っていて何に感動したか」を掘り下げて考え、自分が好きなものを明確にするということが一番大事だと思っています。
そこを自分で理解した上で制作すれば、同じようにそこが好きな人にグサっと刺さる作品が生み出せると思っています。逆にふわっとした思いで作ると「なんとなくいいよね」で終わってしまいます。
「この人これが本当に好きなんだな」っていう熱量が大きいほど、聴いた瞬間に他とはどこか違うものになるんです。
曲を作り続けるだけでなく、たくさんの作品に触れて自分の好きをとことん追求してみてはいかがでしょうか。
ーーありがとうございました。
取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)
profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。
ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue