【UADプラグイン特集】様々な歪みを生み出す名機 Thermionic Culture Vulture
ミックスに不可欠な「歪み」をコントロール
UADの秀逸なプラグインをご紹介していくシリーズ、第5回目となる今回は、「Thermionic Culture Vulture」を取り上げます。
EQやコンプに次いで、歪みや倍音のコントロールというのは、現代のミキシングにおいて重要な意味を持ちます。
ジャンルによっては積極的に歪みを加えていくこともありますし、もう一味足りないサウンドに何かを足していくとすれば、やはり僅かな歪みによる倍音付加でしょう。
そんな”歪み”にフォーカスし、手早くサウンドメイクできるのがこのCulture Vultureです。
では、サウンドとともに確認していきましょう。
製品リンク:Thermionic Culture Vulture
なお、UADプラグインは専用のDSPアクセラレーター(あるいはオーディオインターフェイスApolloシリーズ)で動作します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
Thermionic Culture Vultureについて
Thermionic Cultureは真空管の魅力に取り憑かれたVic Kearyによって英国で1998年に設立されたメーカーです。真空管は英国ではThermionic Valve、米国ではVacuum Tubeという呼称があり、それが社名の由来となっています。
Thermionic Cultureを代表する製品とも言えるCulture Vultureは、ジャンルを超えた数多くのレコーディングで使用され、ウォームなチューブサウンドから激しいドライブサウンドまで、鮮やかなディストーションカラーのパレットを提供してきました。発売から15年来、唯一無二のチューブディストーションユニットの名機として君臨しています。
このユニークな機材を、本格的に回路エミュレーションしプラグイン化したのが本製品です。
Thermionic Culture Vultureの主要パラメーター
Culture Vultureの実機はステレオ構成となっており、それぞれのチャンネルについて左右対称にパラメーターが配置されています。
中央のスイッチを「LINK」にしておけば、片方の操作で両方を同時に操作することができます。
- ①DRIVE
インプットゲインをコントロールし、歪みの強さを調整します。音量も変化しますので適宜OUTPUT LEVELを併せて調整します。 - ②BIAS
真空管を通過する電流をコントロールし、歪みのキャラクターを変化させます。0〜1mAの範囲で、右に回すほど弱い電流、左に回すほど強い電流となります(中央のメーターに表示)。電流は弱いほど線が細く粗い歪みとなり、強いほど太く豊かな歪みになります。DRIVE、DISTORTION TYPEとの兼ね合いでサウンドが変化しますので、様々な組み合わせを試してみてください。 - ③DISTORTION TYPE
3つの動作モードを切り替え、歪みの特性を選択します。Tモードは偶数次倍音を発生させ、ソースの持つ音楽的な側面を崩さず、真空管のウォームな質感を付加します。Pモードは奇数次倍音を生み出し、エッジの効いたよりクリエイティブなディストーションサウンドを形成します。P2モードは特殊な方法で複雑な効果を与え、ややトリッキーとも言える結果を得ることができます。いずれもDRIVEやBIASの値次第で様々なサウンドメイクが可能です。 - ④OUTPUT LEVEL
最終的な出力音量を調整します。 - ⑤FILTER
12dB/Octのローパスフィルターで、6kHz/9kHzからなだらかにハイカットします。過度な倍音を抑えてミッドレンジ中心の歪みとしたい場合など、目的の歪みを得るためのツールとして使用するといいでしょう。 - ⑥OVER DRIVE
真空管にさらなる入力(+20dB)を与え、アグレッシブなディストーションを得ます。 - ⑦MIX
ソースのサウンドとエフェクトサウンドのバランスを調整します。激しく歪ませた際に潰れたトランジェントを、ソースサウンドを混ぜることによって取り戻す、といった使い方が主です。
使用ケース1:ドラムバスへの適用
楽曲の雰囲気に対してドラムがクリーンすぎて馴染まない、といった際には、手っ取り早くドラムバスにCulture Vultureを適用してみましょう。
変化を比べてみてください。
▶︎ドラムバス 適用前
▶︎ドラムバス 適用後
明らかに歪んだサウンドとまではいかず、適度な”汚し”がかけられ、中域がふくよかになって太さが増していますね。一方で倍音効果により、金物のざらついた存在感がいい味を出しています。
設定はこのような感じです。
DISTORTION TYPEはTとし、歪みすぎない程度までDRIVEを上げ、BIASで歪みの質を調整しました。目安としては、キックのアタックに余計な倍音が乗らない程度、といったところです。
FILTERは今回は使用しませんでしたが、ローファイな印象を狙いたい場合は使ってみてもいいでしょう。
使用ケース2:エレキギターへの適用
アンプシミュレーターを使用したケースなどに、ギターのサウンドに若干温かみや太さが足りない、といった場合があると思います。そのような際にもCulture Vultureは威力を発揮します。
まず1つ目のケースを聞いてみてください。
▶︎ギター1 適用前
▶︎ギター1 適用後
サウンドの印象が一気にミッドレンジにシフトして、ホットでパンチのあるサウンドになりましたね。倍音は適度に抑えられ、滑らかな印象です。
設定はこのような感じです。
DISTORTION TYPEはT、DRIVEは元のサウンドの印象を変えすぎない程度に上げ、BIASはマックスとして真空管らしさを存分に出しました。FILTERは9kHzとし、超高域のノイジーな倍音を削っています。
ギターについてはもう一つ試してみましょう。
▶︎ギター2 適用前
▶︎ギター2 適用後
こちらもミッドの歪みが増した感じですが、先ほどのギターよりも若干エッジが残る仕上がりとなっています。
設定はこのような感じです。
DISOTORTION TYPEをP1としたのが味噌で、奇数倍音が付加されて輪郭が出た感じです。ただし、これでDRIVEやBIASを上げすぎると強烈に歪むため、いずれも控え目な値としています。仕上げにFILTERを9kHzとし、ノイジーな倍音を削って鍋らかな印象を狙いました。
使用ケース3:ベースへの適用
最後にベースへの適用です。ボリュームは上げたくないが存在感を出したい、といったケースはよくあるかと思います。
Culture Vultureでどのように変化するか、聞いてみてください。
▶︎ベース 適用前
▶︎ベース 適用後
こちらも明らかな歪みではありませんが、適度に倍音が付加されてソリッドな印象となり、同時に中低域がどっしりとして太いサウンドとなっています。
設定はこのような感じです。
DISTORTION TYPEはT、DRIVEそこそこ上げつつ、アタック感が損なわれないようBIASをやや控えとしています。FILTERは6kHzまで行い、ベースの美味しい帯域にパワーをシフトさせました。
これ以上歪ませると、あっという間に倍音で埋め尽くされて輪郭のないベースになりますが、まるでシンセベースのようなサウンドにもできるので、音作りの幅は相当広いと感じました。
最後に参考として、上記のトラックをミックスしたもので、Culture Vultureの適用前後を比べてみましょう。
▶︎ミックス 適用前
▶︎ミックス 適用後
以上、今回はThermionic Culture Vultureをご紹介しました。
今回の企画を通して私自身も、歪みの大切さ、また質の良い歪みがいかに心地いいかを改めて体感しました。Culture Vultureの真空管サウンドは非常に音楽的で、やや味気ないサウンドさえもエモーショナルに変貌させる魔力を持っているように思います。
ご興味を持たれた方は、ぜひお試しください
製品リンク:Thermionic Culture Vulture