メロディック・マイナースケールとマイナースケールのまとめ/音楽理論講座
メロディック・マイナースケールと、その出来た経緯を学ぶ
今回は、今まで3種類あるといっていたマイナー・スケールの内、残りのスケール「メロディック・マイナースケール」を確認していきましょう。
即興演奏をする方は、難しいスケールを考える、あるいは覚える際に、ルートを変えてこちらのメロディック・マイナースケールに置き換えて使用する場合もあります(オルタード・スケールなど)。
また、クラシックと分けるために、他の名前がついている場合もありますね。
ここでは、ハーモニック・マイナースケールを学んだ際のように、どうして3種類もあるのかにポイントを絞って解説していきます。
まずは、今までの流れのポイントをまとめておきましょう。
✳︎ここでの注意点は、各マイナースケールに”それぞれに問題点があったためにこのような順番で出来た”ということを知った上で、現代の曲も分析してみることです。
(各マイナースケールは現在でも全て使用されており、それぞれに利点がありますが、どれが一番優れているというわけではありません)
自然発生的なナチュラル・マイナースケール
最初に、ナチュラル・マイナースケールを学びましたね。
(ナチュラル)・マイナースケールは日本語で、(自然的)短音階でした。
メジャースケール同様、人間の感覚から”自然的”に生まれたイメージとも考えられます。
そして、ダイアトニックコードを作り上げたものの、リーディングトーンがないため、ドミナント上に作られたコードは以下のようになりました(49〜52回参照)。
※5番目にできるコードには、3和音では「Leading Tone」が含まれず、さらに4和音ではトライトーンがない(m7コード)のため)
もちろん、V→Iに戻った際にはある程度終わった感じを得られますが、メジャーに比べて弱く終わった印象を受けました。
- Tm→Dm→Tm / Im→Vm→Im, Cm→Gm→Cm
- Tm→SDm→Dm→Tm / Cm→Fm7→Gm7→Cm
❇︎T,SD(S),Dのみで表記する場合もあります。
ハーモニック・マイナースケールへの発展
次に、ハーモニック・マイナースケールを学びました。
(ハーモニック)・マイナースケールは日本語で、(和声的)短音階でした。
“ファンクション(機能和声)を意識した、機能”和声的”終始感が強まる”という点が、人工的に作られたスケールである(ハーモニック)・マイナースケール=(和声的)短音階の名前の由来とされているということでした。
ナチュラル・マイナースケールの(SubTonic)=(♭7)を上の画像のように(Leading Tone)=(7)とし、ダイアトニックコードを作り上げると、さまざまな新しいコードは出てきますが、Dominant=ドミナントの上に作り上げられたコードは以下のようになります。
メジャー同様に、3和音ではリーディングトーンを含んだV、4和音だとリーディングトーン及びトライトーンを含んだV7が作られ、先ほどのナチュラル・マイナーでは得られなかった、マイナーキーの説得力(=強い解決感)を得ることができました。
- Tm→D→Tm / Im→V→Im, Cm→G→Cm
- Tm→D→Tm / Im→V7→Im, Cm→G7→Cm
しかし、以下のようにスケールを並べた場合は違和感はありませんでしたが、
ハーモニックマイナーの♭6,7間のオーグメント・インターバル(オーグメント2nd=増2度音程)を目立たせてしまうと…
一般的な西洋音楽ではあまり良い動きではなかった、中近東感の印象が出てしまいます。
メロディック・マイナースケールの登場
メロディック・マイナーという名前に注目してみましょう。
勘の良い方は、すでに気づかれたかもしれませんが、メロディック=Melodicには、“旋律的”、”調子の美しい”といったの意味があります。
この、“旋律的”のイメージで捉えていくと掴みやすくなります。
日本語では、その名の通り「旋律的短音階」と表記されます。
先ほどのハーモニック・マイナースケールのb6,7間(オーグメント2nd=増2度音程)を下記画像のようにしてみましょう。
こうすることにより、リーディングトーンも含み、違和感のあったインターバルも解消されました。
こちらも、ダイアトニックコードを作り上げると、まだ紹介していないコードが出てきますが、Dominant=ドミナントの上に作り上げられたコードは、3和音ではリーディングトーンを含んだV、4和音ではリーディング・トーン及びトライトーンを含んだV7で構成されます。
マイナースケールにおいては、「上行形はメロディック・マイナー、下降形はナチュラル・マイナー」とされることがあります。
これは、スケールを下降する際に第七音がリーディング・トーンである必要がないことや、下降する際に第3音が出てくるまでマイナー感が分かりづらいことが理由としてあげられます。
メジャー”系”スケールと、マイナー”系”スケールの大きな違いは、第3音が♭3or3であるとも言えますね。
併せて覚えておきましょう。
最後に、この3つのマイナースケールに数字を振ってみましょう。
- ナチュラル・マイナースケール
1 2 b3 4 5 b6 b7 (8) - ハーモニック・マイナースケール
1 2 b3 4 5 b6 7 (8) - メロディック・マイナースケール
1 2 b3 4 5 6 7 (8)
楽曲分析の際は、上記の違いや、どう使われているかを分析してもいいですね。
下記動画の特に4:58秒からも参考にしてみてください。
まとめ
今回の学習ポイントをまとめると下記の通りです。
- ナチュラル・マイナースケールは自然な音階構成を持つが、リーディングトーンがないため強い終止感が得られない
- ハーモニック・マイナースケールはリーディングトーンを含み、強い終止感を得られるが、♭6と7の間にオーグメント2nd(増2度音程)により、西洋音楽ではあまり良い動きではない
- メロディック・マイナースケールはリーディングトーンを含み、♭6と7の間のオーグメント2nd(増2度音程)を解消し、調子の美しい音階構成を持つ
- マイナー系スケールとメジャー系スケールの主な違いは第3音(♭3または3)にあり、これがスケールの性質を決定づける
記事の担当 伊藤 和馬/Kazuma Itoh
18歳で渡米し、奨学金オーディションに合格後、ボストンのバークリー音楽大学で4年間作曲編曲を学ぶ。
バークリー音楽大学、現代音楽作曲学部、音楽大学課程を修了。
日本に帰国後は、Pops・アニメソング・アイドルソング・CM・ゲーム・イベントのBGMまで、幅広い作曲・編曲の技術を身につけ作編曲家として活動している。