終止に注目してみる/音楽理論講座
ケーデンスの要となる「終止」
アボイド・ノートやシックスコードを学んだところで、再びコードと楽曲構成について見ていきましょう。
第31回でトニック、サブドミナント、ドミナントコードを使用した「コード進行の最小単位」=「ケーデンス(Cadence)=終止形」を確認しました。
忘れてしまった方は、下記の記事をご参照ください。
今回は、ケーデンスの終わりの部分に注目し、楽曲の終わりや楽節の終わり(ひと段落)を表現したり、次への橋渡しを表現する「終止」に焦点を当てていきます。
文章における句読点のような役割を持つ終止は、楽曲の流れを理解するために非常に重要です。
クラシック音楽とポピュラー音楽では終止の捉え方が異なることが多いですが、ここではなるべく実用的なアイデアを中心に紹介します。
終止のバリエーション
楽曲を構成する上で、終止は非常に重要な役割を果たします。
終止にはいくつかのバリエーションがあります。
以下では、一般的な終止の種類とその特徴を解説します。
全終止 (Perfect Resolution)
全終止は楽曲の終了やコード展開を一旦落ち着かせたいときなどに使用します。
オーセンティック・スタンダードやドミナント・レゾリューション、日本語ではドミナント・モーションとも呼ばれています。
- 例)V7(V)→I、Imaj7
※トライトーンを含むV7からの進行は、特に終止感が強くなります。
第31回で取り上げたT→SD→D→Tの最後のD→Tの部分がそうでしたね。
強進行の際に取り上げた下記のコード進行の最後も全終止です。
- Em7→Am7→Dm7→G7→C
全終止には、併せて覚えておきたい2つの考え方があります。
メロディとコードの兼ね合いで流れを作る際に、意識すると良いでしょう。
- 完全終止:トップノート(またはメロディ)がトニック(主音)。
完全に終わった印象が非常に強い。 - 不完全終止:トップノート(またはメロディ)がトニック(主音)ではない。
完全終止より終わった感じが弱くなる。
両者を続けて聴いていただくと、違いがよく解ると思います。
半終止 (Imperfect Resolution)
半終止は完結せず、次の展開への期待を持たせる終止です。
- 例) V7(V)で終わる(止める)
ポップミュージックではイントロの終わりやサビ前などによく使われます。
緊張感を持たせることで、さらに次への期待感が高まります。
変終止 (Plagal Resolution)
変終止は別名アーメン終止とも呼ばれ、終止感は弱めで、柔らかく着地する印象です。
- 例)SD→Tで終わる
ケーデンスの項目で取り上げたT→D→”SD→T”のサンプルが該当しますね。
古典的な楽曲では、完全終止の後にさらに変終止を付け加えたものも多く見られます。
偽終止 (Deceptive Resolution)
偽終止は形は全終止と同じですが、Tの代理コードに解決します。
- 例)I-IV-V-VIm
VからIへの期待をあえて裏切り、意外性を持たせる終止です。
Tではなく、その代理コードを使うことで、次の展開へスムーズに繋ぐことができます。
ここでは、T→SD→D→Tの最後の”T”に、Tの代理としてよく使用されるVIm/VIm7を使用してみましょう。
まだ続きそうな印象がありますね。
そのまま続けて、最後は全終止で締めてみましょう。
偽終止からII-V-Iと繋げて、ストーリー性のあるコード進行ができましたね。
以上が一般的な終止の種類となります。
ここまで来れば、メジャー・ダイアトニックコードを使って作曲ができるようになるまで、あと少しです。
ぜひ楽曲解析も進めながら、感覚を掴んでいって下さい。
次回は、sus系コードについて解説していきます。
記事の担当 伊藤 和馬/Kazuma Itoh
18歳で渡米し、奨学金オーディションに合格後、ボストンのバークリー音楽大学で4年間作曲編曲を学ぶ。
バークリー音楽大学、現代音楽作曲学部、音楽大学課程を修了。
日本に帰国後は、Pops・アニメソング・アイドルソング・CM・ゲーム・イベントのBGMまで、幅広い作曲・編曲の技術を身につけ作編曲家として活動している。