レコード製作者の権利 音楽著作権
こんにちは。高木啓成です。
第13回と第14回とで、実演家の著作隣接権を解説しました。
今回は、「レコード製作者の著作隣接権」を解説していきます。
重要なところなので気合を入れていきます!!
レコード製作者の著作隣接権は、いわゆる「原盤権」と呼ばれるものですね。
音楽ビジネスの中核をなしていた財産権です。
ですので、今回、しっかり「レコード製作者の著作隣接権」の意味を理解して
もらえればと思います。
1_レコード製作者とは?
「レコード製作者」とは、レコード(CD)原盤の音源を最初に固定した者(会社)のことです。
音楽制作の現場でいえば、要するに、原盤のレコーディング・ミックス・マスタリングを行い、
完パケを作った者(会社)のことです。
さらに言えば、レコード製作者とは、原盤制作の費用を負担した者(会社)のことだ、と思って
もらって大丈夫です。
一般的には、レコード会社をイメージしますね。
実際、僕も、これまで、「レコード製作者」はレコード会社であることを前提に解説をしていました。
ただ、音楽実務上は、レコード会社だけではなく、プロダクションや音楽出版社が費用を負担して、
CD原盤制作を行うことも多々あります。
この場合、プロダクションや音楽出版社が、原盤権者になるので、その点は注意です。
ちなみに、著作権と原盤権は全く別物ですので、
別に著作物を録音しなければ原盤権が発生しないというわけではありません。
たとえば、僕が電車が好きで、電車の「ガタンゴトン」の音を録音した場合、
僕は、その録音の原盤権者になります。
2_レコード製作者の権利
今は、パソコンがあれば、DAW上で高品質の音源を作ることができますが、
昔は、レコーディングには非常にお金がかかりました。
もちろん、今も、生楽器で、ストリングスやブラスを入れれば、非常にお金がかかりますよね。
そうやって、レコード製作者が、多額の費用を負担したにもかかわらず、
海賊版などに法的に対処できない、というのでは、レコード製作者はたまったものではありません。
ですので、レコード製作者に、「レコード製作者の著作隣接権」という形で、
保護が与えられたわけです。
みなさんがDAW上で音源を制作した場合、
その音源については、みなさんが、レコード製作者の著作隣接権をもつわけです。
レコード製作者の著作隣接権は、「複製権」、「送信可能化権」、「貸与権」などがあります。
実演家の著作隣接権とよく似ています。
3_複製権
複製権とは、原盤を制作したレコード製作者が、そのレコード原盤を複製する権利です(96条)。
レコード製作者は、複製権を専有します。
ですので、無断で、CDの音源を複製すると、レコード製作者の複製権の侵害になります。
複製権がレコード製作者の著作隣接権の本質的な権利だといえます。
4_送信可能化権
送信可能化権とは、原盤を制作したレコード製作者が、
そのレコード原盤をインターネット上にアップロードする権利です(96条の2)。
レコード製作者は、「送信可能化権」を専有します。
ですので、無断で、CDの音源をインターネット上にアップロードすると、
レコード製作者の送信可能化権の侵害になります。
5_貸与権
貸与権とは、原盤を制作したレコード製作者が、
そのレコード(CD)を貸与により公衆に提供する権利です(96条の3)。
レコード製作者は、「貸与権」を専有します。
レコード製作者の著作隣接権での貸与権は、
実演家の貸与権と同じで、CDの発売日から1年間のみです。
それ以降は、レンタルCD業者に対して、報酬を請求することができるだけになります。
このように、レコード製作者は、CDの発売日から1年間は、
レンタルCD業者に対して「レンタルするな!」と言えるわけです。
ただ、実際は、レコード会社の団体である「レコード協会」とレンタルCD業者の団体である
「日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合」との間で、
レンタルの禁止期間を0日~21日間にしています。
ですので、CDの発売日から数日で、レンタルCD店にCDが並ぶわけです。
ちなみに、洋楽のCDの場合、海外のレコード会社は、1年間の貸与権をフルで行使しています。
ですので、洋楽のCDは、1年間はレンタルCD店でレンタルできないようになっています。
6_著作権との違い
レコード製作者の権利(原盤権)について、理解してもらえたでしょうか?
原盤権と著作権はまったく違う概念です。
たとえば、僕が「りんねのね」の作詞・作曲をして、
sleepfreaksがレコーディング・マスタリングなどの原盤制作を行ったとしましょう。
この場合、誰かが、「りんねのね」を弾き語りで歌ってみて、それを無断でインターネットに
アップロードした場合、僕は、著作権者として、「公衆送信権侵害だ!!」と主張できます。
しかし、sleep freaksは、法的には何も言えません。
なぜなら、sleep freaksが制作した音源がアップロードされているわけではないからです。
また、「りんねのね」がヒットしてカラオケ店でたくさん歌われた場合、
僕は、著作権の使用料をたくさんもらうことができます。
しかし、カラオケは、CDの原盤の音源を使っていないので、
sleepfreaksには1円も入ってこないわけです。
あくまで、原盤権とは、レコード製作者が制作した音源についてのみ、行使できる権利なのです。
あと、注意してほしいのは、実演家の著作隣接権と同様、
原盤権には、「演奏権」がありません。
ですので、たとえば、音楽CDを、ホテルのロビーで流したり、クラブDJが流したりする場合、
著作権者の許諾は必要ですが、原盤権者の許諾は不要です。
7_今回のまとめ
今回、レコード製作者の著作隣接権について詳しくみていきました。
音楽業界で仕事をしている人でも、意外と、
「著作権」と「原盤権」との違いが曖昧な方もいらっしゃいます。
レコード製作者の著作隣接権は、あくまで、
「その音源」について認められる権利だということを憶えておいてください。
次回、著作権侵害に対する対抗手段について見て行きましょう。
著者の紹介
高木啓成
DTMで作曲活動中。
ロックバンド「幾何学少年」(現在、休止中)のリーダー、ドラマー。
弁護士として、エンターテインメント関係の法務、
中小規模の会社や個人の法律問題を扱う。
TwitterID : @hirock_n
Soundcloud : soundcloud.com/hirock_n
アクシアム法律事務所 : https://axiomlawoffice.com
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- サウンドクリエイターのための音楽著作権