「音楽業界への道標」 第23回 宮瀬卓也さんインタビュー
株式会社SKIYAKI代表取締役 宮瀬卓也さんへインタビュー
音楽業界への道標、第23回目の今回は株式会社SKIYAKIの代表取締役である宮瀬卓也(みやせ たくや)さんに取材を行いました。
ファンクラブ運営を始め、ライブ制作やファン旅行など多方面にサービスを展開しているSKIYAKI社が、音楽業界の将来をどう見据えているのかお話を伺って参りました。
ぜひご一読ください!
ーーこの度はインタビューさせていただきありがとうございます。現在の宮瀬さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
現在は株式会社SKIYAKIの代表取締役を務めています。
ーー宮瀬さん自身はこれまでどんな道のりを辿ってこられたのでしょうか?
早稲田大学の理工学部を卒業したのちソニーミュージックに入社しました。
元々は中学3年生くらいの頃からキーボードを始め、高校生くらいの頃からはDTMをしていたこともあり、「就職するなら音楽業界かな」となんとなく決めていました。
でも実際入社してみると思っていた仕事とはちょっと違っていたことや、アーティスト活動をしたかったこともあり18ヶ月で辞めてしまったんです。
その後テクノ系のミュージシャンとして活動を始めたんですが、年収70万円くらいしか稼げなくて。これは食べていけないな、と思っていたちょうどその頃iモードが出てきたんです。携帯に始めてブラウザ機能が搭載され、ネット決済なども出来るようになった。
そこで「月額制のサービスを作ればイケる!」と思い最初の会社を起業しました。
自分が元々好きな音楽とITテクノロジーを使って、日本で初めてアーティストのファンクラブを携帯で作ったんです。
ーー当時ファンクラブの形態としてはどんな状態だったのでしょうか?
年会費モデルで、毎年5000円くらいを払うような仕組みが大半でした。
オンライン決済もできないので、基本的に郵便振替で支払うアナログのような状態でしたね。
ーー始めてオンラインのファンクラブ事業を始めたときはかなり大変だったのではないでしょうか?
そうですね。まずインターネットの仕組みを説明するところから始めなくてはいけなかったので最初は大変でした。
でもそうやって営業していきある一定数以上集まると、勝手に問い合わせがくるようになったんです。「携帯のファンクラブって儲かるんだ」とみんな分かり始めたんでしょうね。
そうやって立ち上げた会社のファンクラブビジネスが軌道に乗り、上場を目指そうと準備したところでちょうど子供が産まれまして。一旦子育てをやりたいなと思って立ち上げた会社を売却しちゃったんです。
その後2年くらい子育てに専念したあと再び立ち上げたのが今の会社です。
なぜ”ファンクラブ”なのか
ーー以前起業した会社、そして現在も行なっているファンクラブビジネスですが、この発想はどのようにして生まれたのでしょうか?
2000年前後にITブームがあり、次のデバイスは絶対にモバイルになるという確信がありました。
ずっと持ち歩くものなので、ここでサービスをしたら当たると思ったんです。
ーーネット×音楽に関するサービスであれば他にも色々と選択肢がありそうです。
WIREDの初代編集長であるケヴィン・ケリーの言葉が印象的だったんですが、「コピーされるものいずれタダになる宿命にある」と。
音楽ってコピーの歴史だと思うんですけど、時代が進むにつれてどんどん価値が下がっていきました。だからどんな商品であれ、コピーできるものは最終的にタダになる運命なんだと思っていたんです。
そういうこともあって「稼ぎ方を変えなくてはいけない」と思い、最初に目につけたのがファンクラブビジネスでした。
ーー確かにファンクラブはコピーはできませんね。
あとはライブエンターテイメントとグッズです。これらを三種の神器と僕らは呼んでいるのですが、それらの仕組みをきちんとクラウド上に作って音楽業界の方々やアーティストに使ってもらうというところで始めました。
最初は分かりやすくサブスクリプションモデルの方が安定収入になるので、ファンクラブビジネスからスタートした…という流れです。
ーー現在ファンクラブ運営だけでなく様々なサービスを展開しているのはそういった意図があるからこそなんですね。
今は発想を広げ、新しい上位概念で事業を行なっています。
ファンクラブを一つのチャネルとして捉え、ECやファン旅行、ライブ制作なども行なっています。いわゆるオムニチャネル戦略というものですね。
そしてそれぞれのファンがどのアーティストにどのような応援をし、どれくらいお金を使ったかなどを集計し、ファンのランキングを作る。上位のファンはチケットの先行販売などの特典を受けることができるbitfanという仕組みを作りました。
ーー以前岡崎体育さんが導入し、「ファンにランキングをつけるのはどうなのか」と物議を醸したことがありましたね。
ファンにランキングをつけるという概念が世の中になかったので、一部のファンから批判はいただくだろうなと当初から想定していました。
しかしアーティスト側からは賛同いただけると思っていて、実際問い合わせもかなり増えています。
これがどんどん浸透していけば今後間違いなく受け入れられる仕組みだと思っています。
そしてもっと誰でも自分でファンクラブを作れるように、今年7月にbitfan CLUBというサービスをリリースしました。こちらもどんどん進化させていこうと考えています。
bitfan CLUBに登録しておくことでアーティストはコンテンツ制作に専念でき、あとはファンが勝手に盛り上がってくれるという仕組み作りをしていきたいなと思っています。
ーーここまでくると、本当にメジャーとインディーズの垣根が無くなってきているように感じます。
今は音楽配信も情報発信もすべて個人で出来てしまいますからね。
芸能界の仕組みもそうなんですが、大手芸能プロダクションの下に俳優やアーティストが集まって契約するという形式が、2000年以降のインディーズブームの影響もあって小さな会社でも可能になりました。
そして今や会社ではなく個人単位で出来る時代になり、そういうインフラを用意しなくちゃいけないということで、アーティストとファンが集まるプラットフォーム作りを行なっています。
ーーそこに人が集まればアーティストもマネタイズすることができ、ファンも自分の熱量に応じた特典を受けることができるということですね。
今は音源の収入がなくても活動できるような時代に変化しています。
音源っていうのは一つの宣伝ツールだと思っていて、ヒット曲を出せばみんなに知ってもらうことができ、ファンはもっと深く知りたいと思うようになります。
そのためにファンクラブに入り、チケットを買ってライブを観る。そこでアーティストは収益化できるというわけです。
ーーアーティスト目線のお話ですが、自身の楽曲を知ってもらうための宣伝活動として有効な手段はなにかありますか?
まずはステージに立つということでしょうか。
ライブハウスももちろんですが、最近は沢山のフェスが各地で開催され出演のハードルも低くなってきています。
今の音楽産業はライブエンターテイメントで成り立っていますし、なるべく多くの人に見てもらうことが重要なのではないでしょうか。
生き方と考え方
ーーいままでの宮瀬さんのお話を聞いて、新しいことを考えてから実行に移すまでのスピードがとても早いように感じます。
ここは株式会社の面白いところで、やっぱり組織で動いた方が早いんですよね。
まずお金を投資して人を雇い、生み出したもので利益を回収するっていう意味で言えば、レバレッジがかかっているので圧倒的に早いスピードでプロジェクトを動かすことができます。
ーー失敗したらどうしよう、などは考えたりするのでしょうか?
やっぱり恐怖心はあります。ただそれを上回るくらい楽しいんですよ。
今は音楽の枠も出ていって声優さんやキャラクターのファンクラブ、2.5次元などなどエンタメ全般を手がけるようになっています。
ーー宮瀬さんが普段心がけてしていることはありますか?
一つは多くの方と食事をすることです。20歳〜35歳になるまでに3000人くらいの方々と食事をしました。今は立場上もっと増えていますけどね。なるべく自分の世界を広げるようにしていました。
もう一つは読書です。
起業した頃は年間500冊くらい読んでいたのですが、そうなるとだんだんパターンが見えてくるんです。
本屋さんで平積みされているものを片っ端から読んでいるうち、自分が必要としているものが分かってくるのでどんどんジャンルを絞って吸収していきました。
ーー宮瀬さんはこれから音楽業界はどのように変わっていくと思いますか?
AIやロボットが商売をするようになると人間の労働時間って減っていき、可処分時間がどんどん増えていきます。そうなると働く必要もなくなり、人間のやることって「遊ぶこと」になると思うんです。
人間は昔から思想を選択してきました。宗教なんかもそうですよね。
エンターテイメントも全く同じで、アニメの世界観や、アーティストの発信している思想をみんな”選択”しハマっていくんです。
世界観や思想の構築はいろんなパターンがあるとは思いますが、そういった人には無いものを持っていると最強だと思いますね。
みんなどこかに所属してないと不安なんです。人が自分の居場所を探す過程でエンターテイメントというのは一つの安心材料になると思っていて、その流れは今後どんどん加速していくと思います。
ーーありがとうございます。では最後に宮瀬さんのこれからのビジョンを教えてください。
個人的なところで言うと、自分もアーティスト活動をしていきたいですね。
元々持っていた思いでもありますし、アーティスト側の視点でサービスを作ることが出来るので。
会社的なところで言うとすごいシンプルで、世界で初めて「遊びのインフラ」を作りたいなと思っています。
夢中になって遊べる人が得をして儲かる、そんなサービスを作っていきたいですね。
ーーありがとうございました。
取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)
profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。
ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue