【UADプラグイン特集】1176の前身 希少コンプを再現 UA 175B and 176 Tube Compressor Collection
個性的ながら使いやすいキャラクター
UADの秀逸なプラグインをご紹介していくシリーズ、第4回目となる今回は、「UA 175B and 176 Tube Compressor Collection」を取り上げます。
なんとなく「1176」を彷彿とさせる名前や見た目ですが、そのサウンドは真空管らしくカラリとした明るい印象で、かつもっちりとした独特の質感を与えてくれます。1176以上にカラーリングが顕著なコンプレッサーと言えますが、ドラムやボーカルなどオールマイティに使用することができます。
では、サウンドとともにチェックしていきましょう。
製品リンク:UA 175B and 176 Tube Compressor Collection
なお、UADプラグインは専用のDSPアクセラレーター(あるいはオーディオインターフェイスApolloシリーズ)で動作します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
UA 175B/176について
1960年に発表された Universal Audio の 175B および 176 コンプレッサーは、スタジオ用途に向けて作られた初のチューブリミッターです。名高い 1176LN の前身であるこれらの希少なユニットは、ザラっとしたチューブのあたたかさ、ユニークなアタックの特性、そして優れた品質によって高く評価され、今日でも絶大な人気を誇るモデルとなっています。
UAD-2 ハードウェアと UA オーディオインターフェイス専用の 175B & 176 Tube Compressor Collection は、これらの象徴的なリミッターのコントロールセットと回路パスの全てを驚くほど詳細にエミュレートしています。
UA 175B and 176 Tube Compressor Collectionのパラメーター
175Bと176は、左上のつまみ(175BはGain、176はRatio)の違いを除いては全く同じです。
コンプレッサーの基本的なパラメーターが中心ですが、一通り見ておきましょう。
- ①Gain(175Bのみ)
Highに設定すると、入力音量を約10dB増加させます。 - ②Ratio(176のみ)
2:1、4:1、8:1、12:1の4段階でレシオ(圧縮比率)を切り替えます。 - ③Input
入力音量を調整し、固定スレッショルド値をオーバーさせることで、コンプレッションの強さを調整します。通常2dBステップでの調整となりますが、Vernier(後述)を切り替えることで、無段階にすることも可能です。 - ④Output
最終的な出力音量を調整します。ここでのコントロールは、コンプレッションには影響を与えません。通常2dBステップでの調整となりますが、Vernier(後述)を切り替えることで、無段階にすることも可能です。 - ⑤Vernier
InputとOutputノブについて、2dBステップか無段階かを切り替えます。 - ⑥Attack
アタックタイムを調整します。約100μs〜1000μsの範囲となり、非常に高速です。OFFをクリックした場合、コンプレッションが行われない状態となり、機材を通したサウンドの色付けのみを行うことができます。 - ⑦Release
リリースタイムを調整します。27ms〜527msの範囲となります。 - ⑧S.C. Link
ステレオトラックに適用する際のみ使用可能なスイッチです。オンにすると、左右チャンネルのコンプレッション量がリンクされ同量となります。オフの状態では、左右独立したコンプレッションが行われます。 - ⑨MIX
コンプレッションのかかっていないドライシグナルと、コンプレッション済みのウェットシグナルをミックスさせることができます。100%でウェットのみ、左に回すにつれドライの比率が上がっていきます。
使用ケース1:キックへのUA176適用
使用感として176は比較的動作が俊敏なので、ドラムなどのトランジェントを鋭くして存在感を出したい時に向いていると感じました。まずはキックに適用してみましょう。
今回は、DAW付属のコンプレッサーとUA 176を聴き比べていただきたいと思います。
▶︎DAW付属のコンプ
▶︎UA176
176は非常にアタック感のある、アグレッシブなサウンドになりましたね。DAW付属のコンプでもこれに近づけようと努力してみましたが、この感じは中々出せませんでした。
設定はこのような感じです。
あまりセオリーに囚われず、サウンドとゲインリダクションメーターを頼りに直感的な操作をして良いかと思います。今回はレシオは標準的な4:1、アタックは中程度の4の位置、リリースは約5.5の位置とし、ゲインリダクションが-6dB程度に達するよう調整してみました。
アタックは流石の速さで、どの値でもしっかりとピークを捉え、かつパンチのあるサウンドとしてくれますが、出過ぎず引っ込みすぎずを模索してこの設定としました。最終的にはミックス全体の中で確認した方がわかりやすいでしょう。
リズミカルに戻るようリリースは早めとしましたが、あまり早くし すぎるときちっとリダクションが出ないので、その加減を見て調整します。
使用ケース2:スネアへのUA176適用
こちらもキックと同様の理由でスネアに176適用してみました。
同じくDAW付属のコンプレッサーと176を比べてみましょう。
▶︎DAW付属のコンプ
▶︎UA176
176のサウンドはいかにも真空管らしい、カラッとした質感で、もう一歩抜けてくる感じに仕上がっています。中域に特徴があるためか、余韻の胴鳴りが非常に心地よいです。また、スナッピーの振動も鮮明に浮き上がり、音楽的にブラッシュアップされた感じがありますね。
設定はこのような感じです。
こちらもやはり、色々とパラメーターを動かしながら直感的に値を決めて行っていいでしょう。このようなサウンドを目指す場合、傾向としてはアタック遅め、リリース早めとなるケースは多いかと思います。
今回はしっかりとパンチが欲しかったため、レシオ8:1でアタックは2の位置、リリースは余韻が重たくならない程度(かつリズムに追従するよう)に約4.5の位置としました。コンプのかかり具合は、キック同様リダクション-6dB程度です。
こちらも、最終的にミックスの中で確認すると、176のスネアは太く存在感がありながら、程よくミックスに馴染んでくれることがお分かりいただけると思います。
使用ケース3:ボーカルへのUA175B適用
175Bは176と比べて、カタログ値は同じであってもややレスポンスが遅く、ナチュラルな効き方をするように感じました。またサウンドへの色付けも176より顕著で、特に際立たせたいトラックに使用すると威力を発揮しそうです。
というわけで、今回はボーカルに適用してみました。
▶︎DAW付属のコンプ
▶︎UA175B
中域に太さが加わりながら、高域にはややザラついた質感が付加され、目前に迫るような存在感が出てきました。また、ゲインリダクションは最大-6dB程度の範囲で結構激しく動くのですが、全くコンプ臭さを感じません。
設定はこのような感じです。
アタックはこの設定でもかなり速いはずなのですが、それを感じさせないナチュラルさです。リリースは、全体をしっかり前に押し出したいため早めとしたいところですが、前述の通り速すぎるとコンプレッション自体が浅くなるため、そうならないギリギリの位置に設定しました。
ミックス全体で確認すると、やはり色付けによる効果は絶大で、ラウドなオケに埋もれずしっかりと抜けてきてくれます。こういった質感はやはり通常のEQ等で簡単に生み出すことはできません。もし出過ぎと感じられた場合はEQでコントロールすればいいでしょう。
最後に参考として、ミックス全体で上記3トラックにそれぞれのコンプを適用した場合を比較してみてください。
▶︎キック、スネア、ボーカルにDAW付属のコンプ
▶︎キック、スネアにUA176、ボーカルにUA175B
以上、今回はUA 175B and 176 Tube Compressor Collectionをご紹介しました。
まさにビンテージの中のビンテージというべきコンプで、希少なために逆に知られていないのかもしれません。1176とも違う個性的なキャラクターを持ちながら、コンプとしての性能は非常に優秀、かつ操作はいたってシンプルということで、様々なソースに試したくなる製品です。
ご興味を持たれた方は、ぜひお試しください。
製品リンク:UA 175B and 176 Tube Compressor Collection