ハーモニック・マイナースケールと、オーグメント・インターバル/音楽理論講座
新たなスケールの習得に向けて
今回は、第51回、第52回から登場した新たなスケールにもう少し踏み込んでみましょう。
以下の内容も必須となりますので、復習しておいてください。
ハーモニック・マイナースケール
この新たなスケールは、いわゆる、半音上のトニックに導く役割を持っている、リーディング・トーン(導音)(7)を取り入れることで出来上がったスケールでしたね。
ではこの新たなスケールの名前を見ていきましょう。
このスケールは「ハーモニック・マイナースケール」と言われます。
(ナチュラル)・マイナースケールは日本語で(自然的)短音階と呼ばれるのに対し、
(ハーモニック)・マイナースケールは(和声的)短音階とも言います。
この名称は、ハーモニック・マイナースケールでダイアトニックコードを作成した時に出来上がる、リーディング・トーンやトライトーンを含んだ5番目のコード(=V,V7)が関係しています。
❇︎全てトニック、サブドミナント,ドミナント上に出来上がるコードですので、T,SD(S),Dのみで表記する場合もあります。
これにより、悲しい、またはクールな雰囲気の曲の中に、メジャー同様の緊張感や不安定感から安定感へ落ち着く流れ(=強い解決感)を得ることができました。
- Key=Cマイナー
Im→V→Im / Cm→G→Cm
Im→V7→Im / Cm→G7→Cm
このファンクション(機能和声)を意識した、機能”和声的”終始感が強まることが、人工的に作られたスケール、(ハーモニック)・マイナースケール=(和声的)短音階の由来とされています。
Harmonicの意味も、「調和の/和声の/調和的な」とあるように、そのキーを明確にし、支配的で強力なドミナントを生み出すために作られたイメージです。
ハーモニック・マイナーのスケールディグリー
ここまで出てきたスケールのスケールディグリーを確認していきましょう。
数字を振って覚える利点は、すべてのメジャースケールさえわかれば、あとはその数字に合わせて変更するだけで、目的のスケールにたどり着けるということでした。
メジャースケールに数字を振った場合を
1 2 3 4 5 6 7 (8)
とすると
ナチュラル・マイナースケールは
1 2 ♭3 4 5 ♭6 ♭7 (8)
メジャースケールのスケールディグリーを基に考えると、ハーモニック・マイナースケールでは♭7が半音上がって7に戻ります(「#7」ではありません)。
最初の画像のように、1 2 ♭3 4 5 ♭6 7 8ですね。
ハーモニック・マイナースケールの問題点
今まで2種類のマイナースケールを学んできました。
残りのもう一つを学ぶ前に、ハーモニック・マイナースケールの問題点を確認しておきましょう。
※問題が多いから使えないとか、どれが優れているかといった議論ではなく、現在ではそれぞれのスケールが使い分けられています。
下記で紹介するような動きやインターバルを使用している曲も存在します。
ナチュラル・マイナースケールの問題点は、半音上のトニックに導く役割を持つリーディング・トーン(導音)がないため、解決感が弱い点でした。
では、ハーモニック・マイナースケールの問題点とはなんでしょうか。
このようなフレーズでは特に問題は感じられませんね。
第51回目の記事で「新たに出来上がったスケールには、♭6と7の間に独特の雰囲気がありますね」と述べました。
これを意識しながら、改めて聞いてみましょう。
- Cハーモニック・マイナースケール
C D Eb F G Ab B (C) / 1 2 b3 4 5 b6 7 (8)
♭6と7の間にエスニック、アラビアの雰囲気も感じられます。
実際に中近東の音楽では、「マカーム」という音楽用語があり、この間の動きが重要とされています。
しかし、一般的な西洋音楽ではこちらがあまり好まれなかったようです。
この特有のサウンドは、今までのスケールにはなかった「オーグメント2nd(=増2度音程)」が原因です。
今は、「ここは確かにエスニックな雰囲気があり、これまでのスケールにはなかったインターバルが存在する」と意識しておくだけで大丈夫です。
まとめ
今回の学習ポイントをまとめると下記の通りです。
- ハーモニック・マイナースケールは自然短音階のリーディング・トーンを半音上げて作成し、強い解決感を持つ
- ハーモニック・マイナースケールの構成音は 1 2 ♭3 4 5 ♭6 7 (8) であり、メジャースケールの3、6音を半音下げ、7音はそのままの形
- ♭6と7の間にオーグメント2nd(増2度音程)が存在し、エスニックやアラビア的な独特の雰囲気を持つ
- このスケールによって生まれるV、V7コードは、マイナーキーにおいても強い緊張感と解決感を提供する
次回は、またマイナーダイアトニックコードの使い方に戻ります。
記事の担当 伊藤 和馬/Kazuma Itoh
18歳で渡米し、奨学金オーディションに合格後、ボストンのバークリー音楽大学で4年間作曲編曲を学ぶ。
バークリー音楽大学、現代音楽作曲学部、音楽大学課程を修了。
日本に帰国後は、Pops・アニメソング・アイドルソング・CM・ゲーム・イベントのBGMまで、幅広い作曲・編曲の技術を身につけ作編曲家として活動している。