リニアフェイズ・イコライザーの基礎知識
リニアフェイズEQの利点と副作用
リニアフェイズ・イコライザー(以下リニアフェイズEQ)は、
最近ではDAWに標準搭載されるものや、モード切り替えで使えるものなども増え、
非常に身近なものになってきたかと思います。
一見して高性能EQのようにも見えますが、使い方によっては副作用も発生します。
今回はその利点や使いどころと併せ、避けなければいけない使い方についても解説していきます。
解説動画
最大の利点「位相がずれない」
ミックス時に各トラックで通常使用されるイコライザーでは、
「位相ずれ」と呼ばれる現象が発生しています。
以下の画像は、iZOTOPE社の「OZONE7」を使って、位相ずれを可視化したものです。
非常に微細な単位ではありますが、EQポイントの周辺周波数帯において、
音が進んだり遅れたりということが起きているということです。
シングルトラックのEQにおいては、これは絶対に害悪というわけではなく、
ある意味EQのクセや味の一部と言ってもいい要素だと思います。
ただし、マスタリング等のプロセスで、「あまり音に味付けをしたくない」
「複数トラックが集まっているため、微細なズレでも大きな影響を与えかねない」
というケースもあるかと思います。
そのような際に使用するのがリニアフェイズEQです。
リニアフェイズEQは原理上「全く位相ずれが発生しない」EQとされています。
では、すべてのEQをリニアフェイズにすればいいかというと、そうとも限りません。
その理由の一つは、その処理の複雑さから、CPU負荷が高いためです。
また、以下に詳述する、ある「副作用」があります。
リニアフェイズEQの副作用「プリリンギング」
例えば、キックのみのトラックで、このようなEQ処理を行いたいとします。
鋭角なQで、ゲインもそこそこ大きめに上げ下げしていますね。
これを、原音/通常のEQ/リニアフェイズEQで比べてみると、どうなるでしょうか?
音はぜひ動画で確認していただきたいのですが、波形で見ると以下のような形になります。
波形が持ち上がってくる位置に注目してください。
原音と通常のEQは同じ位置ですが、リニアフェイズEQは少し早めに音が出始めています。
これは、極端なEQカーブを伴うリニアフェイズ処理の副作用として「プリリンギング」と呼ばれています。
結果として、アタックが不鮮明になる、いわゆる「なまり」という現象が起きてしまうのです。
リニアフェイズEQの使いどころ
以上のことから、リニアフェイズEQの使いどころは絞られてくると思います。
- CPU負荷が大きいため、マスターやバス等の「ここぞ」という所で使う
- 極端なEQ処理が必要となるトラックでは使用しない
つまり、ミックスの中でも最後の微調整の局面ということですね。
リニアフェイズEQのプリセット等を見ていただくと参考になります。
このように、緩やかなカーブで、ゲイン操作も少なめになっていることと思います。
リニアフェイズEQは、使いどころをわきまえれば、非常にクリアでミックスイメージを崩さないEQです。
今回の内容を参考に、効果的に使っていただければ幸いです。