実演家の著作隣接権 2 音楽著作権
こんにちは。高木啓成です。
前回、実演家の著作隣接権の前半を解説しましたので、今回は、後半です。
1_送信可能化権
送信可能化権とは、簡単にいうと、
実演家が、自分の実演をインターネット上にアップロードする権利のことです。
実演家は、「送信可能化権」を専有します。
著作権の支分権を解説したときに、「公衆送信権」という権利がありましたね。
平たくいえば、それに似た権利だと思ってください。
ですので、無断で、歌手の歌唱やプレイヤーの演奏をインターネット上にアップロードすると、
送信可能化権の侵害になります。
2_貸与権
貸与権とは、実演家が、自分の実演が録音されているCDを貸与により公衆に提供する権利です。
実演家は、貸与権を専有します。
実演家の貸与権は、非常に変わっていて、CDの発売日から1年間のみです。
それ以降は、レンタルCD業者に対して、報酬を請求することができるだけになります。
貸与権については、レコード製作者の権利のところで詳しく説明します。
3_著作権との違い
このように、実演家にも、著作権者に似た、様々な実演家の著作隣接権があります。
しかし、著作権法上、実演家の権利は、著作権に比べて、保護が薄いといえます。
たとえば、注意すべきなのは、実演家には、「演奏権」がありません。
ですので、たとえば、音楽CDを、ホテルのロビーで流したり、クラブDJが流したりする場合、
著作権者の許諾は必要ですが、実演家の許諾は不要です。
4_音楽業界での扱い
DTMで作曲活動しているみなさんは、バックミュージシャン(プレイヤー)として、
レコーディングに参加する機会もあると思います。
前にも言いましたが、著作権法上は、歌手(ボーカリスト)も、バックミュージシャンも、
同じ「実演家」というくくりです。
しかし、音楽業界では、歌手とバックミュージシャンは、全く別の扱いになっています。
たとえば、歌手の場合は、レコード会社との間で、「3年間」などの期間を定めて、
「この期間は、専属的に、このレコード会社だけで歌います。」という
「専属実演家契約」を締結するのが一般です(最近は単発の契約も非常に多いですが)。
メジャーレーベルと専属実演家契約を締結するのが、いわゆるメジャーデビューですね。
そして、歌手の場合は、「CDの売上に応じて何%」という印税方式で、お金をもらう
契約になっていることが一般です。
これに対して、バックミュージシャンの場合は、専属実演家契約を締結することはほとんどあり
ません。単発のレコーディングに声がかかって、演奏して、お金をもらう、という流れです。
バックミュージシャンの場合は、印税方式ではなく、
「1曲のレコーディングについて、いくら」という買取方式で、
契約書を締結することもほとんどありません。
でも、これまで解説したように、バックミュージシャンも、
著作隣接権として権利をもっているわけです。
実演家の演奏がレコーディングされたCDは、TVで使用されたり配信されたり、
いろいろな使われ方をされるので、
本当であれば、きちんと契約書を締結しておくべきだと思います。
5_今回のまとめ
前回と今回で、実演家の権利について詳しくみていきました。
著作権法上は歌手もバックミュージシャンも同じ「実演家」のくくりであること、
実演家にも著作権に似た著作隣接権などがあることを憶えてもらえればと思います。
次回、「レコード製作者の著作隣接権」を詳しく見ていきます。
著者の紹介
高木啓成
DTMで作曲活動中。
ロックバンド「幾何学少年」(現在、休止中)のリーダー、ドラマー。
弁護士として、エンターテインメント関係の法務、
中小規模の会社や個人の法律問題を扱う。
TwitterID : @hirock_n
Soundcloud : soundcloud.com/hirock_n
アクシアム法律事務所 : https://axiomlawoffice.com