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「音楽業界への道標」第26回 水野良樹さんインタビュー

いきものがかり 水野良樹さんへインタビュー

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音楽業界への道標、第26回目となる今回は「いきものがかり」でお馴染み水野良樹(みずの よしき)さんに取材を行なって参りました。
現在の活動から作詞作曲に対するこだわりまで、トップミュージシャンならではのお話をたくさん聞くことが出来ましたのでぜひご一読いただければと思います!

ーー今回は取材させていただきありがとうございます。ではまず、水野さんの現在の活動を教えてください。

いきものがかりのメンバーとして作詞作曲、ギターを担当しています。
グループが放牧という形で一旦活動に区切りがついた現在は、楽曲提供を中心に活動しています。
あとはグループで活動していた頃からのラジオも継続して行なっています。

ーーいきものがかりで活動していた頃は楽曲提供はされていたのでしょうか?

いえ、全くしていませんでした。基本的にはグループのためだけに曲を書いていましたね。

水野さん流作曲術

ーー水野さんが普段使用している機材を教えてください。

Pro ToolsをMacで動かしています。
よく使う音源としてはTOONTRACKのEZ KEYSですね。ネタ作りの時はスタンドアロンで立ち上げて使うこともあります。

ーー水野さんは大ヒット作を数多く生み出していますが、どういった手順で作曲をしているのでしょうか?

僕は曲先で作ることが殆どなのですが、僕がやっている分野がいわゆるJ-POP、歌モノが中心なので、その一番美味しい部分であるサビから作っていきます。ピアノを立ち上げて歌いながら作っていくようなスタイルですね。

まず大まかなテーマを決めて、サビを20〜30個くらい作ったら自分の中でオーディションをして、その中から一つに絞っていきます。

ーーちなみにここで選ばれなかったサビは、他の楽曲で復活したりはするのでしょうか?

後から持ってくるというのはあまりないですね。
一応ストックとして残す場合もあるのですが、不思議なことに一度弾かれたものってそんなに良くない場合が多いんです。

ーーサビを取捨選択する際、どのような評価基準で良し悪しを判断しているのでしょうか?

自分でも言語化できない部分は多いのですが、特に重要視するのは「分かりやすさ」でしょうか。どこで盛り上がってどこで落としているのかっていうメリハリがしっかりついているかどうかは重要視しています。
あと僕は歌いながら作っていくスタイルなのですが、「歌ってみてどう生きるか」っていうことも意識しますね。

ーーサビが決まってからAメロBメロを作っていくと思うのですが、「広がらない…」というときもあるのでしょうか?

よくあります。(笑)
とはいえ基本的に一度決まったサビは変えたりしないので、思いつくまで頑張ります。

ただ最近楽曲提供をするようになっていろんなパターンで曲を書くことが増えてきました。
歌詞を他の方が書く場合で詞先のときもあるので、自分の中で決めたフォーマットが崩れてきている感じはあるのですが、それがまた新鮮だったりもします。

作詞に対するこだわり

ーー作詞はどのように進めていくのでしょうか?

作詞に関しては特に決まったスタイルは無く、頭から書くこともあればサビでハマったワードから膨らませることもあります。

あと歌詞を書くときは最終的に同じフォント・大きさで全ての歌詞を画面上に並べ今までのものと比較するようにしています。
手書きでも歌詞を書くんですが、文字の大きさや筆圧などによって違うイメージがくっついてしまうことがあるんですよ。例えば和風っぽい文字だったら和風な曲に聞こえてしまう、みたいな。

ーーなるほど、歌詞にもリファレンスのようなものを準備するということですね。

基準をはっきり設けておくことで言葉そのもののイメージを掴むことができます。
それによって漢字にするか、ひらがなにするか、はたまたカタカナにするか…などを決めていきます。

ーーそのほかにはどんなことを大切にしていますか?

「言葉のハマり」っていうのはすごく大事にしています。
言葉にはそれぞれ元からイントネーションがついていて、メロディーのイントネーションとどう関係するのかによってまったく印象が変わるんです。
ぶつかってしまうと違和感を生むことがあるんですが、逆にそれがフックになって良い場合もあります。

もう一歩進んだ話をすると、言葉って不思議で、なんでもない一行がすごいイメージを膨らませることがあるんです。
例えば「帰りたくなった」ではなく「帰りたくなったよ」と表現を変えることで、一気にイメージの膨らみ方が変わります。皆さんの大切な人だったり場所だったりと、色んな受け止め方ができるようになるんですよね。
理屈で説明すると長ったらしくなってしまうのですが、イメージがなるべく膨らみ色んな受け止め方ができる言葉を選ぶように意識しています。

いきものがかり 「帰りたくなったよ」

ーー幅広い解釈ができる歌詞を心がけていらっしゃるんですね。

近藤真彦さんの「ギンギラギンにさりげなく」っていう言葉も、意味が分からなくとも伝わるイメージってあるじゃないですか。それが言葉の面白いところですし、そういうマジックみたいなものを起こせればいいなと思っています。

ーーいきものがかりの楽曲では幅広い年代から支持されるものが多いように感じます。

いきものがかりは相手を絞らず不特定多数に向けた歌っていうのを自分たちで宿命づけていたので、どれだけ分かりやすく伝わりやすい言葉を使うかっていうのを意識して歌詞を書いていました。
ラブソングでも「この人がこんな恋をしたんだろうな」っていう受け止め方をされるととても狭くなってしまうので、そうではなくどの年代どの場所にいる人でもフックがあるように作るよう心がけています。

ーー難しい単語などがあまり登場しないのには、そういった思いが込められていたからこそなんですね。

「空洞」を上手くそこに作りたくて。僕らが発信する曲という”器”があって、その空いた隙間部分に聴く人自身の色んな思いを込めてほしいんです。
だから「何も入っていないものを渡す」っていう感覚なのかもしれないですね。

音楽のチカラ

ーーアーティスト活動をされている人の多くは「自分が発信したいこと」を表現する方だと思いますが、水野さんは少し違ったスタンスなんですね。

僕の場合は「世の中もっとこうなってほしい」とか「こんな風な価値観になってほしい」とか、曲のもう一つ先の部分に興味があって。
例えばいきものがかりの「ありがとう」って曲は、本当に何も書いていない空洞の曲なんです。でも例えば結婚式で娘さんが両親に感謝の気持ちを伝えるときに、あの歌の空洞部分に大切な感謝の思いを込めて両親に届けてくれるんです。それって実は世の中にとてつもない影響を与えるということなんですよね。
大切な感情を歌に乗せてくれたことによって、普通に言葉で喋るより二人を強く結びつけられたかもしれないし、伝えたいことを理解しあえるかもしれません。
僕はそこに、自分の生きがいや幸せを感じています。

もちろん「手紙のようなメッセージをそのまま届ける」っていうのもすごく真っ当な考え方だと思いますし尊重されるべきだと思っています。でも自分を表現したい、伝えたいっていうのは一つの方法論でしかなくて、僕はたまたま「歌が届く人の生活にどう関わりがあってどんな影響を与えているのか」っていう部分に興味がいくので、こういう作り方になっているのかなと思います。

いきものがかり 「ありがとう」

ーーご自身の曲が人と人を繋ぐ架け橋のような役割になるよう意識して制作されているんですね。

音楽ってすごい力を持っていて。例えば「ふるさと」っていう曲がありますが、今の時代ウサギを追いかけたことがある人ってほとんどいないと思うんですよ。(笑)
だけどあの曲を聴くと懐かしい気持ちになったり、都会生まれの人でもどこかノスタルジーを感じますよね。一種のプロパガンダと言ってもいいくらいに影響力があって、日本の原風景を植えつけている楽曲だと思うんです。
僕はそういう危険でもあり希望でもある音楽という可能性に、興味を感じているのかもしれません。

ーー水野さんは「こんな曲がかけたら音楽をやめてもいい!」と思えるような、目標となる楽曲はありますか?

憧れる曲は沢山あるのですが、「上を向いて歩こう」という曲の影響力だったりシンプルさは理想としてありますね。そういう曲が自分の人生の中で一つでも残せたらいいなと思います。
とはいえ、やっぱりそれでも曲を書き続けちゃうと思うんですけどね。(笑)

これまでの道のり

ーー水野さんが音楽で生きていこうと思ったのはいつ頃からだったのでしょうか?

憧れは中学生くらいの頃からあって、高校に入ってバンド活動をしたりいきものがかりを始めたりした頃から「これでご飯を食べていきたいな」と思うようになりました。
大学の卒業が近づき就職活動が目の前に来ていたくらいの時に山下穂尊(いきものがかりギター担当)と「やっぱり(いきものがかりを)やらないか」という話になりました。
運良く仲間がいたので、スイッチを切り替えて真剣に取り組むことが出来たんだと思います。

ーーこれまで音楽活動を続けてきた中で、一番苦しかったのはいつだったのでしょうか?

ふと思い浮かぶのは、デビュー前の一年間でしょうか。レコード会社の育成期間みたいなものがあって、曲作りのことについて厳しいアドバイスを沢山もらいました。それまで「どんなジャンルでも作るのが自分たちのスタイルです」って思っていたのですが、そんな考えは甘かったと気づかされましたし、そもそも自分たちにはそんなに価値も実力も無いんだということを思い知らされました。
でもそこで自分たちの現状を受け止めることができて、じゃあ自分たちが本当に好きな部分はどこで、勝てるところはなんだろうと改めて考える機会になりました。
きっとメンバーみんなキツかったと思うんですが、その一年間はすごく身になりましたね。

いきものがかり 「SAKURA」

ーーその後デビューしたいきものがかりでは、水野さんは多くの作品で作詞・作曲を手がけていますが、編曲は殆どありません。これにはどういった理由があるのでしょうか?

デビューしてから携わるアレンジャーさんがあまりに凄い方々ばかりで、目の前で見ているうちに自分がやる気を全く失ってしまいまして。(笑)
実は僕ら3人とも、出来ることって本当に少ないんです。そこでどう生き残っていくかというのを考えたときに、ズルいかもしれませんが「自分たちに出来る事以外は人に預ける」っていう選択をしたんです。

ーーなかなかその決断は勇気が必要だと思います。

本当は自身の力で具現化するっていうのが正しいと思います。
僕らの場合はたまたま仲間に恵まれていて、色んなセッションミュージシャンやプロデューサーにも出会うことができ沢山のことを学びました。
そこで得たものは本当に大きくて、単純に曲を作る上でも音楽でご飯を食べていくという意味でも、今の活動にある種誇りのようなものを持てるようになりました。
周りの方に支えられながらですが成功することが出来たので、結果的にそれがよかったんだと思います。

ーーちなみに水野さんがもし音楽をしていなかったら、何をしていたと思いますか?

多分就職を嫌がって大学院とかに行き、半分ニートみたいな生活をするっていうダメ人間になっていたと思います。(笑)

これからの音楽業界

ーーこれから音楽業界を目指す新人アーティストは、どのような活動をしていくべきだと思いますか?

もう本当にアーティストによりけりだと思いますが、オーディエンスを獲得していないアーティストにとっては非常に難しい時代だなと感じています。
僕らの場合はたまたまCDが売れる時代の最後のほうに掠っているので、そこで多くのファンの方がついてくれて、その上で今は新しい活動をしています。
ネットがどんどん発達していっているからこそ「逆に誰からも見られない」っていう状況に陥りやすいと思うのですが、そこで目立つことをしようとして、ある種炎上商法を狙ってみたりクリエイティブとは違う方向に走ってしまうのはすごく勿体無いなと思っています。

ーー活動の場がネットに移行していき、YouTubeでしか音楽を聴かないという若者も増えてきていますが、これに関してはどうお考えですか?

ネガティヴな意見もありますが、音楽と出会う場が広がっているというのはいいことだと思っています。
今の若い世代の人たちは年代もジャンルもフラットに聴いているというか、全てをシームレスに考えていて、そのおかげで新たな才能がどんどん生まれてきています。

ただビジネス面で考えると厳しい現実は誰もが分かっていることなので、そこは時代に合わせて変わっていく必要があると思っています。

ーー水野さんがこれまで音楽活動を続けてきた中で、特に大事だと思うことはなんでしょうか?

自分の人生の中で何を優先すべきかを考えることでしょうか。
「音楽を生活の糧にするかどうか」っていうのは意外と岐路な気がしていて、どちらでも全然いいと思うのですが、”自分が本当にやりたいこと”を見極める必要があると思います。
例えばヒットを生み出し収入を得たいのか、メッセージ性の強い音楽で社会運動がしたいのか、とか。同じ音楽活動でも目的によって全く活動は変わってくると思うんです。

僕らはこれまで優先順位をつけなければいけない場面に何度も出くわしています。
持っていきたいものが10個あっても、そのうち8個くらいは捨てなきゃいけない。全部は持っていけないんです。
じゃあ残すモノは何だろうって考えたときに、「3人で活動すること」や「こういう音楽はやらない」っていう風に選択して進んできました。優先順位を決めて納得して
前に進めるかどうかが、自分の幸福度に繋がってくると思うんですよね。
自分の音楽表現を追求したいっていうことだけが目的であればそれこそ職業にせず生活基盤を整えた上で活動した方がいいのかもしれないですし、自分に何度も問いかけながら進むっていうのはすごく大事なことだと今でも本当に思います。

いきものがかり 「歩いていこう」

ーー水野さんは今でも自身に問いかけることはあるのでしょうか?

そうですね。「何のためにやっているんだろう」っていう風に思うことは今でもあります。
前に進めば進むほど色んな方に出会い、本当に信じられないくらい楽器が好きな人やとんでもない天才に出会っちゃったりするじゃないですか。そうすると「自分はなんてダメなんだろう、音楽が好きって思ってたけどこの人には全然敵わないな」って思う瞬間は沢山あります。

ーー第一線で活躍されている方でもそんな風に思う瞬間があるんですね…。

そのたび「誰のために音楽をやっているんだろう」とか「何を誇りにしているんだろう」って問い直さなくちゃやっていけないですよね。
自分が本当に大事にしているものを知ることは大切だと思います。

ーーありがとうございます。それでは水野さんのこれからの目標があれば、教えてください。

僕が死んだ後も曲が残れば、自分という人間を超えられると思うんです。

どれだけ沢山の曲を残せるかが自分が社会の還元出来る唯一のものだと思っているので、1曲でも多く良い曲を残したいですね。

ーーありがとうございました。

読者プレゼント

今回水野さんのご好意で、読者プレゼントをご用意致しました!

TwitterにてSleepfreaks公式アカウントをフォロー&ハッシュタグ「#音楽業界への道標」とツイートしていただいた方の中から抽選で1名様に、水野さん著書の自伝的ノンフィクション本「いきものがたり」を直筆サイン入りでプレゼント!
応募期間は9/23(日)〜9/29(土)となっており、当選した方にはDMにてご連絡させていただきます。

こちらのプレゼント企画は終了いたしました。
たくさんのご応募をいただきありがとうございました。

取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)

Sleepfreaks_momo_profile
profile:1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。

ホームページ:Music Designer momo
TwitterID :@momo_tanoue