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「音楽業界への道標」 第13回 小川貴之さんインタビュー

SACRA MUSIC A&Rの小川 貴之さんにインタビュー

音楽業界への道標、第13回目となる今回はSME(ソニー・ミュージックエンターテイメント)内、SACRA MUSICでA&Rとして活躍中の小川貴之(おがわ たかゆき)さんにお話を伺ってきました!
A&Rという言葉、「聞いたことはあるけれど、実際にどんなことをしているのか分からない…」という方も多いのではないでしょうか?
今回はA&Rというお仕事の魅力や、クリエイターとはまた違った視点での音楽に対する考え方など、ミュージシャン必見のインタビューとなっておりますのでぜひご一読ください。

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A&Rとは

ーーお忙しい中取材に応じていただきありがとうございます。まずは、小川さんの現在の仕事内容からお伺いしてよろしいでしょうか?

現在はSACRA MUSICに所属しているアーティストを担当しています。

ーーA&Rとは具体的に、どういった仕事内容なのでしょうか?

Artists and Repertoire(アーティスト・アンド・レパートリー)の略称なのですが、音源をリリースするスケジュールやビジュアルイメージを考えたり、どのような戦略で売り出すかを決めたりと仕事内容は多岐に渡ります。

ーー基本的に制作には携わらないということでしょうか?

いえ、僕の場合は実際にレコーディング現場でディレクションをすることが多いので制作にも積極的に携わっていますね。

ーー人によって仕事内容が異なるということでしょうか?

一口にA&Rといってもすごく広い捉え方ができるというか、宣伝やマーケティングなどのブランディングに徹する方もいれば、僕のようにレコーディングに立ち会ってディレクションもする方もいますし本当に人それぞれだと思います。

ーー小川さんはどちらもされていらっしゃるということですが、そういった仕事内容は自身で決めてやっているのでしょうか?

元々A&Rってすごく定義が曖昧で、誰かが仕事内容を教えてくれるわけでもないんです。日々のルーティーンの仕事はあるんですが、「このタイミングでリリースしてwebを攻めて…」とかってヒットさせるための正解というものがないんですよね。そんな売れる方法があったらこっちが教えてほしいくらい。(笑)
だから割とみんな自己流でやっています。

小川さん担当アーティスト ASCA『凛』 MUSIC VIDEO

A&Rになるまで

ーーそもそも小川さんはどういった経緯でA&Rという職に就いたのでしょうか?

もともとソニーに入社した時はソニー・マガジンズで雑誌の編集をしていました。GLAYやORANGE RANGE、木村カエラさんといったアーティストの取材をしていましたね。

ーー最初からA&Rを目指していたわけではなかったんですね。

大学も小説家になるための専門みたいな学部でしたし、当時から雑誌のアルバイトをしていたんですがそれが結構面白くて。
好きな作家さんと色々お話しが出来るのが楽しくて、就職を考えた時に「音楽にもすごく興味があるし、音楽雑誌の取材なら好きなアーティストに会えるんじゃないか」と思ったことがきっかけですね。
その後色々と探して見つけたソニーマガジンズに合格し…といった流れです。

ーーちなみに「アーティスト側になりたい」とは思わなかったのでしょうか?

父親がライブハウスを経営しているのですが、そこで自分より圧倒的に上手なミュージシャンや同年代の専門学生を見てきたので「これは無理だな」と。(笑)
ビートルズのコピーバンドをしたりしていたので一応ギターは弾いていたのですが、自分の演奏との違いを感じました。

ーーそうだったんですね。雑誌の編集者からA&Rになったのは、どういったいきさつがあるのでしょうか?

5年ほど編集に携わっていたんですが、自分とアーティストの間の距離がすごく遠いなって思ったんです。
売れて欲しいなという思いで一生懸命連載をやったりして、実際に売れると「ありがとうございます」って言ってくれるんですが、嬉しさと同時に寂しさも感じていて。
「アーティスト側に立って、一緒に喜びたい」と思ったことがきっかけで異動願を出しました。


A&Rのお仕事

ーー今や数々のアニソントップアーティストのA&Rとして活躍している小川さんですが、異動後はどのような道のりがあったのでしょうか?

まずは見習いのような形でポルノグラフィティの現場を担当しました。テレビから何から一通りの仕事を見させてもらい、そこで経験を積ませてもらいましたね。
ちなみにポルノグラフィティの場合はA&Rが3人体制でした。

ーー複数の方が担当するケースもあるんですね。

そうですね。これもアーティストによって様々です。ポルノグラフィティの場合はサウンド系専門やマーケティング専門などで分かれていました。
その後、ポルノグラフィティと同時進行のような形でAliceという新人アーティストを担当することになりました。

ーーそれが実質初の担当アーティストだったんですね。

当時DTM関連の用語なんかは全然分からない状態でのスタートだったので苦労したことを覚えています。
ポルノグラフィティの時は大プロデューサーの本間 昭光さんを中心に制作が動いていたのに対し、Aliceの場合は本当にゼロからのスタートで路頭に迷ってしまったような感覚でした。

そんな時に助けてもらったのが作家のURUさんという方で、デモテープの作り方やレコーディング方法など、「音楽ってこうやって完成するんだ」という部分を色々と教えていただいた覚えがあります。
あと自分の弟が作家をやっていて、そのつながりで色んな作家さんと話すうちに「普段こんな気持ちで作曲をしているんだ」とか、メロディーに対する考え方など様々なことを知りました。


アーティストと歩幅を合わせながら、進んでいく

ーーA&Rの重要な仕事内容として、「どのようにアーティストを売り出すか」というマーケティングがあると思います。これはどのようにして決めていくのでしょうか?

当然これは僕一人で決めるものではないので、アーティスト本人にも「最終的にどこに行き着きたいのか」を思い描いてもらい、本人やスタッフで話し合いながら決めていきます。
またそのアーティストの魅力的な部分をいかに引き出せるかを考えつつ、”今空いている席”を探します。

ーー様々な楽曲が溢れる中で、空いている席を探すのはなかなか難しいように思います。

僕が所属しているSACRA MUSICはアニメソング専門ですが、いわゆる”アニソンっぽい曲”ばかりではないんですよね。やっぱりみんな他と差別化するためやオリジナリティーを出すために色々な工夫をしています。
例えば、「J-POPシーンでは確立されているけれどアニソン界には無い曲」とか、他のジャンルに目を向けたりなんかはよくしていますね。

ーージャンルにとらわれず、幅広い視野で考え決めていくということですね。

そうですね。ただやっぱり、売れているアーティストと同じことをやればいいというものでもないので、本人の意見や周りの意見も汲み取りながら詰めていきます。

どちらにせよ、アーティスト本人と一緒に、追求するゴール地点を見定めることが一番大切だと思っています。

ーー正解が無いゆえに選択肢が無限にあって、苦労することも多いかと思います。

社長からはよく「自分が信じた好きなものをブレずに出していくしかない」と言われています。やっぱり最終的にA&Rが責任を持って舵を切っていかなくてはいけないので、なるべくブレずにいきたいなとは思っています。

ーー余談ですが、もし小川さんがこれから新人アーティスト発掘をするとしたら、一番重視するポイントは何ですか?

僕が一番魅力的に感じるのは”声”ですね。
曲や歌詞ももちろん重要な要素ではありますが、声は誰にも代えられないものだと思います。
VTuberみたいに顔出しをせずとも活動できちゃう時代なので、ビジュアルも以前ほどは重要な要素では無くなってきているように思います。


コンペについての考え

ーー作家事務所に対してアーティストの楽曲を募集する、いわゆる”コンペ”の選考もA&Rのお仕事の一つだと思うのですが、小川さんの視点から見た「いい曲」の基準はどういったものでしょうか?

まず、安心してゴールへ辿り着けるかどうかが大事ですね。
コンペの段階である程度アレンジの方向性が見えないと、採用しても最悪ゴールに辿り着かない恐れがあります。
あとはアニメのタイアップ曲で言うと、89秒という制約の中でいかに美味しく聴かせられるかがキモで、例えば頭サビとかにして「これはこういう曲ですよ」っていうのを最初に提示したり等々、聴き始めの段階で完成が見えやすいものだと印象に残りやすいです。
アーティストによっては1回のコンペで1000曲をはるかに越える量の楽曲が集まってくるので、「いかにインパクトを残せるか」を意識して制作するといいと思います。

ーーとんでもない量の楽曲が集まってくるんですね…。

一週間じゃとても時間が足りないくらいの時もあります。でも良い曲をどんどん出してくれる作家さんは、その時採用はなくともやっぱり名前は覚えていきますし、カップリングなどの時に「そういえばあの曲があったな」っていうことで採用させていただくこともありますよ。
僕の場合はそうやって、なるべく新規でお願いするタイミングを作るようにしています。

ーーもう少し深いところまでお伺いしたいのですが、コンペによく採用される人とされない人、違いはどこにあるのでしょうか?

そのアーティストの色、匂いを上手く汲み取れているかどうかの違いだと思います。
一聴して「ああ、このアーティストのこれまでの曲を聴かずに作ったんだな」って分かることもよくありますしね。
よくコンペで採用される作家さんは、リファレンスの良い部分とアーティストの”色”を融合させるのが上手いなとは思います。

ただ、採用されなくとも”自身の色”を貫く方法もあると思います。なにかのきっかけで表に出た時に、「ああいう曲があの人だよね」っていう強みになりますからね。


A&R視点から見る音楽業界

ーーこれは個人的な意見なのですが、今の時代「音楽活動を続けたいけれど、どこを目指せばいいのか分からない」という方が多くなってきているように思います。

そうですね。メジャーとインディーズの境がどんどん無くなってきているのは前からあります。今の時代誰でもスターになれる可能性が増えてきて価値観も日々変わってきています。

ーー現在、メジャーで活動するメリットとしてはどういったものがありますか?

何か突出した部分があるアーティストに対してお金をかけてプッシュしたりとか、タイアップをつけたりとか。そういう部分ではやはりメジャーは強いと思います。
ただ制約が増えてしまう場合もあるので、デメリットになる可能性ももちろんあります。

ーーどこに価値を見出すかによって活動の仕方が変わってきそうですね。音楽業界全体としてはどんな現状で、今後どうなっていくとお考えですか?

間違いなくCDなどのパッケージ商品の売り上げはどんどん減っていて、ストリーミングスサービスも徐々に浸透してきているものの、CDの売り上げの減り方に比べるとまだ伸び率は鈍いので、全体的な売り上げは減少している印象です。

ーーメジャーアーティストの中でも、ストリーミング配信をしているケースとしていないケースがありますよね。

まだちゃんとマネタイズ出来ていないというか、サブスクリプションだけでは収益を回収出来ないという状態なので、パッケージビジネスでやらざるを得ないっていう現状もあります。ただどこかのタイミングでサブスクリプション(定額サービス)とパッケージが逆転するとは思います。

ーーストリーミング配信が主流になると、どういった現象が起こると思いますか?

一時のニコニコ動画みたいにアーティストが乱立した状態になり、そこから名曲を探し出してプレイリストを作成する”キュレーター”が注目されると思います。作家本人というよりは曲をセレクトするDJっぽい立場の人ですね。

ーーストリーミング配信が流行るとクリエイターやアーティストの売り上げが減ってしまうのでは、という懸念もありますよね。

確かに新曲をリリースしたタイミングで入ってくる収入は減ると思います。でもCDと違い、”長く聴いてもらえる”というメリットはあるんじゃないかなとは思います。
たとえば桜をテーマにしたプレイリストやクリスマスのプレイリストに必ず入る曲ってありますよね?
CDと違い再生されるたびに還元されるので、マネタイズの仕組みが整えばちゃんとした収入源になりうると思います。


小川さんのこれから

ーー小川さんがこれから目指すところを教えて下さい。

作家が作曲だけでなくアレンジやレコーディングもしなくてはいけなくなってきたように、A&Rもどんどんやるべきことが増えてきています。
CDや興業、物販、マネージメントなど360度の視点でやっていかなければ生き残れないだろうなとは思っています。

ーーそれでは最後に、小川さんがA&Rをしていて一番の喜びはなんでしょうか?

担当したアーティストが売れることも勿論そうですし、何かを発表して反応があるとやっぱり嬉しいです。
あとはライブでファンの方が盛り上がってる姿や、タイトルコールで歓声がドカっとあがる光景をみるととても感動しますし、やってきてよかったと思いますね。

ーーありがとうございました。

記事作成者

tanoue
取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)

1995年生まれ。Digital Performer・Ableton liveユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。

TwitterID : @momo_tanoue
Shiro : Youtubeチャンネル