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「音楽業界への道標」第6回 木村秀彬さんインタビュー

劇伴作曲家、木村秀彬さんへインタビュー

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音楽業界への道標、第6回目となる今回は劇伴作曲家の木村秀彬(きむら ひであきら)さんにインタビューを行ってきました。
ドラマ「コウノドリ」や「そして、誰もいなくなった」などなど、数々の有名作品の音楽を手がけている木村さん。制作秘話や、あまり語られることのない劇伴の世界をたっぷりと伺ってきましたのでぜひご覧ください!

ーーお忙しい中取材に応じていただきありがとうございます。ではまず、木村さんの手がけている劇伴とはどんな仕事なのでしょうか?

木村秀彬(以下、木村:)劇伴とは「劇中伴奏音楽」の略称で、映画やドラマ、アニメなどの映像作品に付随する音楽のことです。

ーー木村さんがどんな経緯でこの仕事に携わるようになったのかをお伺いしたいと思うのですが、元々東京で生まれたのちアメリカで育ったと聞きました。

木村:そうですね。生まれてすぐ親の仕事の関係でアメリカに移住しました。その後日本に戻り、高校生活を経て早稲田大学に進学しました。

ーー音楽に触れたきっかけはなんだったのでしょう?

木村:高校2年生の頃、「バンドをやってみよう」という音楽の授業があったんです。期末テストでライブ発表をするっていうちょっと変わった学校だったのですが、その頃ちょうどL'Arc〜en〜CielのHYDEさんにハマっていた影響で「ギターをやろう!」と思ったのがきっかけですね。たまたま同級生に楽器演奏が上手い人がいたので教えてもらっていました。

ーーその当時はまだ「音楽で生きていこう」とは思っていなかったのですか?

木村:僕は中学生くらいの頃から「公務員になりたい」と思っていたので、完全に趣味としての音楽でしたね。早稲田大学に進学したのも、法律や政治を学びたかったからなんです。大学時代も、音楽はあくまで趣味として続けていました。六法全書なんかを片手に(笑)

ーーそうだったんですね。そこからどういった経緯で音楽に傾倒していったのでしょうか?

木村:就職活動で内定も決まった後、大学の友達同士で卒業旅行に行った時にぼんやりと「ギター弾きたいなぁ」と思っていたんです。それで「このまま就職して生活を続けていても、多分ずっとギター弾きたいって思うんだろうな」と考えるようになって。当時法律なんかは一通り勉強していたので、その流れで学問としての音楽も勉強したいと思うようになり…といった経緯です。

ーー卒業後の道が決まった後に、音楽の道に目覚めたんですね。当時から劇伴作家には興味があったのでしょうか?

木村:中学校くらいの頃から、歌モノというよりはサントラ(Sound Trackの略称)が好きで、映像作品のシーンを思い浮かべながら聴いていました。大学生時代も趣味として作曲はしていて、作った作品をよく友達に聴いてもらったりしていたんですが、その頃からなんとなく自分はフロントマン向きではなく職人気質というか、「手に職を」タイプだなと思っていたんです。それが劇伴という仕事に当てはまっていたという感じですね。

ーーそこからバークリー音楽大学へ進学されていますが、日本にも数多く音楽学校はある中でどうしてバークリーという選択だったのでしょう?

木村:元々洋画が好きだったのと、当時スティーブ・ヴァイが好きだった影響が大きいです。ジュリアード音楽院は小さい頃から専門教育を受けてないとなかなか厳しいですし、当時譜面も全く読めない状態だったので日本の音楽大学も難しいかなと。だからバークリーに進学っていうのは割と自然な流れでした。

Steve Vai “Now We Run”

ーーそれでも、音楽の名門大学に入学するのはかなり大変だったのではないでしょうか?

木村:そうですね。日本の専門学校で2年間、ある程度音楽の素養を培った上で入学しました。ギターが好きだったこともあってスタジオミュージシャンを目指していた時期もあったのですが、当時専門学校の先生が「演奏家より作曲家向きだ」っていうアドバイスをくれたのも作家という職業を目指す要因の一つだったように思います。

ーーそうだったんですね。バークリー音楽大学ではどういったことを学んだのでしょうか?

木村:僕は「コンテンポラリーライティングアンドプロダクション」という学科で、現代の音楽で必要な知識や技術を一通り学びました。当時DTMもほぼ初心者のような状態だったのですが、機材が一式揃っている「バークリー用のMac」を購入し勉強していきました。

ーーかなり厳しい授業のイメージがあります。

木村:小編成から大編成まで様々な音楽を学んだり、沢山宿題があったり、実技試験があったりと忙しい毎日でしたね。音楽理論も、ウィキペディアにすらろくに載っていないような専門的なものまで学びました。

ーーそこで徹底的に音楽を学んだあと帰国されたんですね。そこから音楽の仕事に携わるまでにどんな経緯があったのでしょう?

木村:卒業したら帰国しようとは思っていて、日本でどうやって仕事をしようかなとはずっと考えていました。とりあえずどこかの事務所に所属したいと考えていた時に、自分の好きなサントラで髙見優さんの作品が多いことに気づいたんです。それでMiracle Busという事務所に入りたいなと思っていたところ、当時レコード会社で働いていた大学時代の友人から「歌モノ案件だけど、コンペに参加しない?」という誘いを受けたんです。その案件がたまたまMiracle Busのもので、そこで提出した曲がカップリング曲として採用されました。

愛美「このまま、ずっと」

ーーすごいですね。実力はもちろんですが、かなりの出会いや偶然も重なっているように思います。

木村:そうですね。これがきっかけで歌モノのコンペに参加するようになったのですが、最初の1年間くらいは100曲くらい出しても全然通らなくて苦労したことを覚えています。洋楽が好きだったこともあって、多分日本人特有のいわゆる「泣きメロ」が苦手だったんだと思います。
そんな中、別件で事務所に来ていたTBSの方がたまたま僕のデモを聴いたのがきっかけで2時間ドラマの音楽を担当することになりました。これもある意味偶然で、唐突に決まりましたね。

ーーそれが劇伴の初仕事だったんですね。

木村:ただそれが決まったからといって仕事が沢山入ってくるわけではなく、やっぱりコンペはなかなか決まらないですしそれからもかなり苦労しました。
それでも小さな仕事をコツコツとやっていき、2013年に初めて連続ドラマの仕事を担当することが決まって、そこでようやく正式に事務所に所属できるようになりました。

TBS系ドラマ「潜入探偵トカゲ

ーーそこから本格的に劇伴作家として活躍していったんですね。劇伴はどういった流れで仕事が来るのでしょうか?

木村:色々あります。事務所経由だったり、監督の個人指名だったり。歌モノみたいにコンペ形式の場合もあります。

ーー劇伴でもコンペがあるんですね。

木村:ドラマのメインテーマだったりニュースのテーマだったりが多いですね。

ーー劇伴の世界はなかなか入口が狭いイメージがあります。

木村:曲の書くスピードや、ちゃんと発注に応えられるかなど、信頼がとても大切な仕事なので新人作家にはなかなか難しい業種ではあると思います。才能や努力はもちろん、運や実績も重要になってきますからね。

ーー実際に担当することになってからは、どういった流れで制作していくのでしょうか?

木村:ドラマの場合で説明しますと、まず企画書が先に送られてくるので先に目を通した上で打ち合わせに参加します。そこで監督やプロデューサーとイメージを共有し、自宅に帰って制作をしていきます。

ーー具体的に「こういった音楽が欲しい」といったリストを元に制作していくのでしょうか?

木村:業界用語で「音楽メニュー」と呼ばれるものなのですが、最近は無いケースもあるのでその場合は「きっとこういう音楽が必要だろうな」と先回りして考える必要があります。また制作を始める時点では脚本が正式決定したものではなかったり映像が無い場合も多いので、いかに監督やプロデューサーの意思を汲み取れるのかが重要になってきますね。

ーードラマでは何曲くらい制作するのでしょうか?

木村:大体25曲くらいでしょうか。ちなみにアニメだとその倍くらい必要なのですが、ドラマと違って映像や脚本などの資料が揃っている段階で制作するケースが多いです。

ーーどちらにせよ、かなりの曲数が必要なんですね。どういった順番で制作していくのでしょうか?

木村:まずはメインテーマを考えます。その作品のキーとなる音楽なのでかなり悩むことが多いですね。浮かばない時は他のシーンの音楽を作ってイメージを固めていくこともあります。
その後完成したものを提出し、確認してもらっている間に別の曲を制作し…といった流れです。制作期間としてはトータル1ヶ月半くらいでしょうか。

ーー先ほど「先回りして考える」という話が出ていましたが、そうやって制作した曲が使われないこともあるのでしょうか?

木村:ありますね。自分が作った別の曲がそのシーンで使われていたりすると、「こういった曲を求めていたんだな」と反省し次に生かすようにしています。

ーー「何が必要とされているのか」を読む力が大切なんですね。かなりの短期間で制作する中で、気をつけていることはありますか?

木村:ちゃんと睡眠を取るのと、食事はするようにしています。あとは作業環境をしっかり整えるようにしていますね。椅子や机に気を遣ったり、作業スペースもなるべくリラックスできるような空間を心がけています。

ーー音楽機材は何を使用しているのでしょうか?

木村:バークリー時代から使用していることもあって、メインのDAWはLogicですね。Mac Proで動かしています。プラグインはKompleteを軸に、色々なオーケストラ音源を使用しています。

ーー編成などによって使い分けているのでしょうか?

木村:そうですね。セクション毎なら「SPITFIRE CHAMBER STRINGS」を使用してます。木管楽器ブラス系もSPITFIREを使うことが多いですね。ソロの場合は「Bohemian Violin」を好んで使ってます。

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画像「SPITFIRE CHAMBER STRINGS」

ーーシンセ系はどういったものを使用しているのでしょうか?

木村:色々使い分けますね。Massiveや、Logic付属のものも多用します。あとよく使う制作テクニックとしては、シンセにLogic付属の「Auto Filter」をかけることが多いです。ずっとシンセを鳴らしているとうるさくなってしまう場合も多いので、フィルターで音を出し具合をコントロールしています。会話の邪魔になってしまうのを防ぐという意味合いもありますね。

ーー劇伴を制作していく中で色々と気をつけていることはあると思いますが、特に「ここだけは外せない」というポイントはありますか?

木村:メインテーマはやはり重要で、いかに作品の世界観を表現できるかという点と、一聴して覚えられるか・耳に残るかという点はとても重要だと思っています。その曲が流れた時点で、「ここがヤマ場なんだな」と視聴者が分かるキャッチーさが必要ですからね。
あとは毎回何かしらの挑戦や新しい取り組みをするようにして、「前の自分と同じことをしない」ように心がけています。

ーー木村さんは様々なジャンルの作品や音楽を手がけていますが、普段はどういった曲を聴くのでしょうか?

木村:洋楽ロックがメインですね。「Nothing But Thieves」や「Royal Blood」、「Sigur Rós」などを好んで聴きます。

ーー木村さんのように劇伴作家として生きていきたい方も多いと思いますが、今どういった人材が求められているのでしょうか?

木村:若手に関していうと、「ザ・オーケストラ」や「ザ・劇伴」のような音楽はあまり求められていないようには思いますね。近年「映像×音楽」のスタイルが増えてきて、映像と音楽の距離が縮まってきています。映像のための音楽を作るというよりは、「映像と一緒に一つの作品を作る」という考えがより重要になってきているのではないでしょうか。最近、中田ヤスタカさんやRADWIMPSさんなどのアーティストが劇伴を担当していたりするのも、オリジナリティーや個性的な作品が必要とされているからだと思っています。

ーーなるほど、先ほどの「意思を汲み取る」というお話に繋がってくるわけですね。

木村:とはいえ、やはりデモのクオリティーも非常に重要にはなってくるので、やはりかなり難しい世界ではありますね。

ーー劇伴作家を目指していた頃「これをしていてよかった」と思うことはありますか?

木村:ロジカルに曲を作ることが多いので、音楽理論をしっかり学んだのはよかったなと思います。あとはリズムで印象がガラリと変わることも意外と多くあるので、色々な方面から引き出しを増やすように心がけていました。自分が好きだなと思う曲を分析するのも大事だと思います。

ーーちなみに音楽以外で、役に立ったと思うことはありますか?

木村:受験勉強ですね。(笑)

ーーそれは予想外の答えです(笑)

木村:勉強が好きっていうのもありますし、先を見越したスケジュール管理能力が身についたのはよかったと思います。「これを達成するためには、いつまでに何をしなければいけない」という能力は制作をする上でもとても重要なスキルですからね。
受験勉強だけに限らず、色々な人生経験は思わぬところで活きてくることがあります。僕が大学時代の友達の紹介で今の事務所と繋がることができたこともそうですし、ネットだけでなく色んな世界の人と積極的に関わることが後々に役立つこともよくあるので大切だと思います。

ーーこれから劇伴作家を目指そうとしている方に向けてのアドバイスはありますか?

木村:自分がどうなりたいかという目標を決めた上で、自身のブランディングはしっかりした方がいいと思います。その上で、努力はもちろん必要ですし運も大事ですよね。自分の「好き」が世間に受け入れられるのかという問題もありますから。
ただ今の時代、好きな作家にSNSで直接アプローチしたり色んな事務所にデモを送ったりと、接点を持とうと思えばやりようは色々あると思っています。
あとは劇伴作家は、いかに視聴者が共感できる音楽を作れるかが重要です。先ほども話しましたが色んな人生経験を積み、自分自身が一番作品に共感できる能力を身につけることも必要だと思います。

ーーありがとうございました。

木村秀彬さんオススメソフト

Logic Pro

Native instruments Komplete

SPITFIRE CHAMBER STRINGS

Bohemian Violin

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記事作成者

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取材・執筆:momo (田之上護/Tanoue Mamoru)

1995年生まれ。Digital Performerユーザー。音楽学校を卒業後作曲家として福岡から上京。
2017年8月ツキクラ「STARDUST」に作・編曲で参加し作家デビュー。
「心に刺さる歌」をモットーに、作詞作曲・編曲からレコーディングまで全てをこなすマルチプレーヤー。
アートユニット「Shiro」の作編曲担当としても活動中。

TwitterID :@momo_tanoue

「Shiro」 Website : https://www.shiro.space/
「Shiro」 TwitterID :@shiro_unit