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【UADプラグイン特集】倍音でミックス/マスタリングを彩る名機 UAD Vertigo Sound VSM-3

Author: sleepfreaks

様々なシーンに適応するハーモニック・ジェネレーター

UADの秀逸なプラグインをご紹介していくシリーズ、第8回目となる今回は、「Vertigo Sound VSM-3」を取り上げます。
元となったハードウェアは「VSM-2」ですが、その特性を忠実に再現しつつ、新たな機能を追加の上「VSM-3」という名でプラグイン化されました。
ミックスにおける倍音コントロールの重要性は、以前「Thermionic Culture Vulture」の回でも述べましたが、このVSM-3はミックスのみならずマスタリングにも対応する、非常に多彩な機能を備えたハーモニックジェネレーターです。
アナログ機材による色付けはどうしてもブラック・ボックス的になってしまい、ケースに応じて数種類を使い分けるということになりますが、VSM-3では欲しいアナログ感を自在にデザインすることができます。LRやMS別の処理も可能なため、幅広い用途に対応できるのも特徴です。

製品リンク:Vertigo Sound VSM-3

なお、UADプラグインは専用のDSPアクセラレーター(あるいはオーディオインターフェイスApolloシリーズ)で動作します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

Vertigo Sound VSM-2(実機)の特徴

vsm-2

VSM-2は、以前ご紹介したコンプレッサー「VSC-2」のメーカー「Vertigo Sound」社によって開発された、オールアナログミックス/マスタリングツールです。
その機能は一言で言い表すのは難しく、倍音による色付けはもちろんのこと、スイッチングやモニターコントロール、MSエンコーダー及びデコーダーといった機能が詰まった、オールインワンプロセッサーとなっています。まさに、現代のミックス/マスタリングのニーズに的確にマッチした製品と言えるでしょう。
すべてのVertigo Soundの製品のように、VSM-2は最大限の耐久性と極限のパフォーマンスを保証するためもっとも高い工業水準で製造されています。実機の価格は100万円以上しますので、中々個人のDTMerでは手に届かない機材ですが、Brainworxがその忠実なモデリングを実現し、見事にプラグイン化しています。

Vertigo Sound VSM-3の主要パラメーター

  • ①Input
    VSM-3への入力信号の大きさを調整します。原則12時の位置でOKですが、元の音が大きすぎるor小さすぎる場合、コントロールしやすいように調整するといいでしょう。
  • VSM-3のハーモニックジェネレーターは、2nd Harmonic FET Crusherと3rd Harmonic Zener Blenderの2タイプに分かれています。
    2nd Harmonic FET Crusherはクラス A 三極真空管ステージをエミュレートすることでピュアな 2 次 倍音を生成し、サウンドに”温かみ”や”豊かさ”を加えます。
    3rd Harmonic Zener Blenderは 3 次倍音に加え、 ドライブの量に応じて高次奇数倍音を生成します。 5極管(ペントード)の歪み特性がエミュレートされており、明瞭感、輪郭を加えます。
    それぞれに同じパラメーターが配置されていますので、特性を活かしながら使い分け、あるいはブレンドしてみてください。

  • ②Drive
    ハーモニック・ジェネレーターに入力を突っ込むことにより、倍音を発生させます。微細なサチュレーションから激しい歪まで可能です。ノブ上のLEDによりかかり具合(緑→黄→赤)をチェックすることができます。
  • ③Level
    後述のInput Filterによって定められた帯域のレベルを調整します。マルチバンドコンプレッサーの帯域別のレベル調整に似ています。二つのLEDは、左がソースのレベル、右は処理後のレベルを表しています。
  • ④Input Filter
    ハーモニック・ジェネレーターに送る周波数を設定します。 特定の帯域のみに倍音を付加したい場合、Full/Track以外を選択します。Trackモードを選択すると、後述するTHD Mixが無効になります。
    ・Low:10 Hz~120 Hz
    ・Mid:120 Hz~1.5 kHz
    ・HiMid:800 Hz~4 kHz
    ・High:4 kHz~20 kHz
    ・Full:120 Hz~20 kHz
    ・Track:10 Hz~20 kHz
  • ⑤Shape
    高域の倍音成分をカットするローパス・フィルターです。 耳障りなザラつきやギラつきを感じた場合、適度に高域をカットすることで落ち着いた音色が得られます。対象となるのは歪み成分のみで、それ以外には影響を与えません。
  • ⑥THD Mix
    原音(ドライ音)とハーモニック・ジェネレーターの出力(ウェット音)をミックスするノブです。
  • ⑦LR&M/S セレクター
    ハーモニック・ジェネレーターに送るチャンネルをLRまたはM/Sから選択するトグル・スイッチです(例えばソースのSチャンネルの高音域にのみハーモニクスを加える事などが可能です)。
  • ⑧Style
    歪みのしきい値となる内部的なスレッショルドにおいて、ニーの形状を選択することができます。Softの方がダイナミクスに対して滑らかに歪み、Hardではレベルが高いほどはっきりと歪みが出ます。DriveのLEDが赤点灯するほど歪ませている場合は、スレッショルドを遥かに超えていますのであまり差は出ません。
  • ⑨System
    各ハーモニック・ジェネレーターのON/OFFを切り替えるスイッチです。/li>

  • ⑩THD Mixer
    Parallelモードでは2nd Harmonic FET Crusherと3rd Harmonic Zener Blenderのバランスを調整します。Serialモードでは無効となります。

  • ⑪Parallel/Serial Switch
    スイッチを“Parallel”に設定すると 2 つのハーモニック・ジェネレーターは並列動作となり、上記THD Mixerでバランスを調整できるようになります。スイッチを”Serial”に設定すると”THD Mixer”ノブは無効になり、2 次倍音→3 次倍音の順に処理が直列で行われます。

  • ⑫MS Solo
    MSチャンネルのmidとsideを個別にモニタリングできます。

  • ⑫Distortion Solo
    各ステージでドライ音に追加されるウェット信号のみをモニタリングできます。2nd/3rd/2nd&3rdの中から選択可能です。

使用ケース1:ベースへの適用

VSM-3はマスターバスへの適用が王道ですが、それは最後にとっておくとして、まずはベーストラックから適用してみました。
音量ではなく質感で存在感を出していくことが狙いです。

▶︎適用前

▶︎適用後

低域がどっしりすると同時に、程よい歪みでサウンドに芯が生まれましたね。
後でミックス全体を聴いていただければわかるのですが、しっかりベースの役割を果たしながら邪魔にはならない存在感になりました。
設定はこのような感じです。

Bass

ndでは、FilterをLowとし、Driveで比較的強めに歪ませながら、THD Mixでちょうど良い質感を探りつつ設定しています。
Levelは12時の位置だとちょっとブーミーになるので、収まりのいい低域になるようやや下げて調整しました。
3rdでは、FilterをFullとし、こちらもLEDがオレンジに光る程度にDriveを上げていますが、嫌な歪みにはならなかったため、THD Mixはフルです。LevelはFullの場合、全体のレベルに影響しますので、12時の位置から動かしていません。結果的に、倍音が適度に強化され存在感が増しています。
最終調整として、バランスの良いサウンドになるよう中央のTHD Mixerをやや3rdよりにしてみました。この辺りは、好みやミックス全体との兼ね合いで決めていけば良いでしょう。

使用ケース2:ボーカルへの適用

VSM-3はボーカルのサチュレーター/エンハンサーとして使用することもできます。
中高域の倍音を強化し、抜けを良くすることを狙っています。

▶︎適用前

▶︎適用後

一枚膜が取れたように明瞭感が増し、かつ高域の嫌な痛さもないですね。ミックスの中で心地よく映えるのが容易に想像できます。後にミックス全体での変化も載せていますので、ぜひご確認ください。
設定はこのような感じです。

Vocal

2ndでは、FilterをHighとし、軽めにDriveをかけています。これでも実は結構歪んでいますので、THD Mixも控えめで60%としています。
Shapeではあまりキンキンしないように多めにカットし、その上でLevelは若干上げて、気持ち良く伸びる程度の高域を目指しています。
3rdでは、FilterをHiMidとし、Driveは2ndよりも強め、THD Mixも70%としています。HiMidということもあり、2ndよりもうるさすぎない倍音です。
一方でShapeは60%と多めにカットし、効果が中高域に集中するよう調整しています。
なお、今回は2ndと3rdはSerial(直列)としています。バランス調整が必要ない場合、ParallelとSerialを比べてみて、好みの質感となる方をチョイスすればいいでしょう。

使用ケース3:マスターバスへの適用

さて、VSM-3の真骨頂とも言うべきマスターバスへの適用です。
MSモードを活用した広がりと迫力の演出、ミックス全体へのアナログ感付加が狙いです。

▶︎適用前

▶︎適用後

ミックスバランスを極端に崩すことなく、程よくサイドが強化され、現代的なサウンドに変貌しましたね。高域は痛くならずにふわっとした空気感が足され、上下の広がりも増したように感じます。
設定はこのような感じです。

2ndはモードをLR、FilterをFullとし、アナログ感と温かみの付加を担当しています。
DriveはLEDオレンジ点灯までしっかりと歪ませた上、THD Mix 70%でバランスをとっています。Shapeもしっかり目にカットし、不要なざらつきを起こさないことで、アナログっぽい温かいサウンドを目指しました。
3rdはモードをS、FilterをHiMidとし、サイドの強化によるミックスの広がり・迫力の演出を担当しています。
Driveは70%と高めですが、LEDは緑点灯です。これでも十分な倍音付加効果が得られていますので、THD Mixは2ndと同じ70%としています。Shapeは中高域の歪みが顕著に現れすぎない程度に削っておきました。
Levelは広がりを調整するような感覚でセッティングするといいでしょう。今回はやや上げてみましたが、上げすぎるとバランスが崩れるので注意です。


最後に参考として、上記3トラック全てにおけるVSM-3適用前後を比べてみましょう。

▶︎ベース、ボーカル、マスターへの適用前

▶︎ベース、ボーカル、マスターへの適用後



以上、今回はVertigo Sound VSM-3をご紹介しました。
見慣れないパラメーターが多いため一見すると難しそうですが、慣れてしまえば歪みのコントロールが非常にやりやすい設計となっていることがわかると思います。
かかり具合が非常に心地よく適用範囲も広いため、一つ持っておくと様々なシーンでサウンドをブラッシュアップしてくれることでしょう。
「ミックスにもうひと味が足りない」とお悩みの方は、ぜひ一度お試しいただければと思います。

製品リンク:Vertigo Sound VSM-3


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記事の担当 大鶴 暢彦/Nobuhiko Otsuru

Sleepfreaks DTM講師 大鶴 暢彦
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