「コンペの仮歌を依頼するときの契約とは?」/クリエーターのための音楽著作権(ビジネス編)

Author: sleepfreaks

音楽著作権記事担当の高木 啓成弁護士よりご挨拶

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こんにちは。弁護士の高木啓成です。
すみません、少し間が空いてしまいました。

前回まで5回にわたって、みなさんの楽曲がメジャーレーベルからCDになった場合について解説してきました。
今回はもっと身近な話題にして、仮歌シンガーさんにコンペに提出する楽曲の仮歌を依頼するときの契約内容を考えてみたいと思います。

仮歌シンガーさんに依頼するときに、契約書を取り交わすことはほとんど無いと思います。
僕自身、そこまではやっていません。

たしかに、仮歌シンガーさんに依頼するときに毎回契約書を交わすということは現実的じゃないです。
でも、一度、あらかじめ基本的な契約内容を定めておいたほうが、作家さんにとっても仮歌シンガーさんにとっても良いですよね。
そこで、いい機会なので、毎回の仮歌の依頼に共通する基本的な条件を定めるための契約書を考えてみたいと思います。

あと、ここでは、クリエイターさんの自宅やスタジオなどで仮歌シンガーさんと一緒に仮歌を収録するのではなく、クリエイターさんがオケや譜面を仮歌シンガーさんに送って、仮歌シンガーさんが自宅などで収録してwavデータを納品してもらう形式を想定しています。
それでは、契約内容を考えていきましょう。


仮歌を依頼する場合の契約内容

仮歌シンガーさんに仮歌をお願いするときの契約内容には、大きく、

  • 1 具体的な仮歌の依頼
  • 2 納品と修正について
  • 3 著作権法上の権利の処理
  • 4 守秘義務

の4つがあると思いますので、それぞれ見ていきます。

1 具体的な仮歌の依頼

まず、どのようにして、毎回の仮歌の依頼(個別契約)をするのか、その手続を簡単に定めておきましょう。

「いつまでにオケや歌詞を送りますので、いつまでに仮歌を入れてください」「いくらをお支払します」ということを約束しなければなりませんよね。
毎回の依頼の際に、このあたりのことをメールできちんと合意しましょう、ということを定めておきました。

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2 納品と修正について

「仮歌の依頼」という性質上、すぐに納品を受けた仮歌を確認するのが通常ですし、仮歌の納品を受けて何日も経ってから修正を依頼しては仮歌シンガーさんにとって負担です。

他方、もし、こちらが送った譜面どおりに歌ってもらえていない場合は、すぐに歌い直してもらう必要がありますね。
これは「仮歌」の契約の特殊性だと思います。

ですので、クリエイターさんは、仮歌の納品を受け次第、速やかに修正依頼しなければならないし、修正依頼に対しては、シンガーさんは迅速に対応してもらわなければなりません。
この辺りのことは、決めておきたいところです。

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ちなみに、コンペで決まったときや、最終まで残った場合に、発注者側から、「サビの後半をこんな感じに修正してほしい」とか「キーを変えてほしい」という修正依頼が入ることがありますよね。

このような修正依頼も納期がシビアなことが多いので、迅速に対応してもらわなければなりません。
また、その際には追加料金が発生することも明確にしておいたほうがいいですね。

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3 著作権法上の権利の処理

仮歌さんの仮歌には、著作権法上、実演家としての「著作隣接権」や「実演家人格権」が発生します。
これは、基礎編の第13回で解説したとおりです。

著作隣接権」には、「録音権・録画権」という無断での複製を禁じる権利や「送信可能化権」というネット上でのアップなどを禁じる権利がありますので、この部分は、本来は、仮歌さんとの間できちんと契約しておかなければ、争いになる可能性があるわけです。

ではどのように解決するのかというと、仮歌さんにお金を支払うのだから、「著作隣接権」の譲渡を受けてしまう、というのもひとつの処理方法です。

もっとも、仮歌シンガーさんはだいたい事務所に所属していたり、所属していなくても仮歌案件はあくまで「仮歌案件」として受けているので、「あくまでコンペのためだけに使ってもらいたい」と希望していることがほとんどだと思います。
YouTubeやnanaなどで公表されたりすると仮歌シンガーさんは困るわけです。

ですので、

  • ① 仮歌シンガーさんから著作隣接権の譲渡を受けて、そのうえで、その利用方法を「コンペに限る」という制限を加える

または

  • ② 著作隣接権は仮歌シンガーさんが保有したままで、コンペに限って、利用を許諾してもらう

のどちらかの処理になります。

音楽業界では実演家の著作隣接権は原盤権者が買い取ることが多いですし、原盤権と実演家の著作隣接権を別人に保有させるのは権利行使などの際に煩雑になるという理由から、①の方法にしておきます。

この2つの方法にどんな違いがあるのかということは、細かい話になってくるので、ここでは省略しておきますね。

また、一応、クレジット表記の問題も生じます。
コンペ用なので、仮歌さんのクレジットを表記することはできないのが明らかですが、クレジットは、「著作者人格権」の「氏名表示権」という重要な権利ですので、一応、契約書に記載しておきます。

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4 守秘義務

仮歌の依頼の際には、仮歌シンガーさんに、その仮歌の企画やアーティストの情報を伝えることになると思います。
このようなコンペに関する情報は、厳密に守秘してもらわなければなりません。

逆に、仮歌シンガーさんも、自分が仮歌シンガーをやっていることを秘密にしてほしいという方もいらっしゃいますので、その場合は、こちらも秘密を守るように定めておきましょう。

コンペ情報が漏れるという事件はちょこちょこ発生するので、重要ですね。
でも、考えてみれば、仮歌シンガーさんからコンペ情報が漏れることよりも、作家側から漏れることのほうが圧倒的に多い気がします。。。
コンペ情報を漏洩するのはプロ失格ですから、絶対にダメですよ!

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これらをまとめて、第1条にこの契約書が適用される範囲を定めて、第7条に「もし裁判になった場合は東京地方裁判所にしましょうね」という管轄の合意を加えて、契約書の形にしました。

【契約書のダウンロード】

singing contract

仮歌業務委託基本契約書のダウンロード(Word形式)

この契約書はご自由に使っていただいて構いませんが、この契約書の使用についてはいかなる意味でもsleepfreaksも私も責任を負うものではありませんので、どうぞご了承くださいませ。

とはいえ、仮歌シンガーさんと契約書を締結するのはけっこうハードルが高いと思います。
「契約書までは。。。」という方は、仮歌をお願いするときに、契約書の内容の重要なところを箇条書きにしたメールを送って、その内容に了承してもらう方法であれば比較的やりやすいと思います。

以上、仮歌シンガーさんとの契約内容について考えてみました。
次回は、またテーマを変えて、違う話をする予定です。どうぞお楽しみに。


「記事の担当」高木 啓成 弁護士

高木啓成

高木 啓成/Hironori Takaki
DTMで作曲活動中。logicユーザー。ロックとダンスミュージックが得意。
弁護士として、エンターテインメント関係の法務、企業法務や個人の法律問題を扱う。


楽曲配信中 : http://www.tunecore.co.jp/artist/hirock_n
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