広告

×
目次

エンジニア・プロデューサー 小嶋隆一のマスタリング講座 ③ 楽曲のサウンド統一

Author: sleepfreaks

マスタリングで作品同士のサウンドを整える

エンジニアプロデューサーの小嶋隆一です。
前回はメインになる楽曲「BEACH SS SUNSET」のマスタリングを行いました。
今回は、カップリング曲の「Kind Of」をマスタリング済みの「BEACH SS SUNSET」の音質に合わせて処理をしていきましょう。

楽曲「Kind Of」はこちらです。

なぜ楽曲同士の質感を統一する必要があるのでしょうか?

楽曲によって楽器、トラックの状態、音圧だけではなく、ジャンルやボーカルも異なる場合があります。
これら収録曲の質感を統一しなくては、アルバム自体がまとまりのない印象になってしまうためです。

1曲単位であれば好みの質感で進めて良いのですが、複数の楽曲が収められているアルバムの場合はそうはいきません。
アルバムという1つの作品(コンセプト)を通して、各楽曲の世界観を統一して聴かせるための処理が必要になります。

それではマスタリングを行なっていきましょう。

楽曲確認

アルバムのマスタリングは、全体の統一感を確認するために処理が終わった楽曲をプロジェクトファイルに配置して、いつでも音の質感を確認できる状態にしておきます。

テープシミュレータで音に温かみを持たせる

前回のマスタリングでもおこなったように、まずはテープシミュレータを使って、楽曲に温かみを持たせます。
使用するプラグインは同じく、SLATE DIGITAL社のVIRTUAL TAPE MACHINESです。

tape

VUメーターが0dbになるよう、INPUTを調整しましょう。
INPUTを「-2db」に設定します。

サウンドを確認してみましょう。

  • 適用後

アナログの質感がしっかりと出たかと思います。

VUメーターの調整

次に、VUメーターの針が「-7db」になるところまで、HOFA 4U METER,FADER & MS-PANでボリュームを上げます。
この工程も前回と同様となります。

これで「-7db付近」になるように調整します。

ボリュームを最適化したサウンドはこちらです。

イコライザーでの処理

当楽曲は全体的に迫力が足りない印象を受けましたので、この点を意識してイコライザー処理を入れていきます
この際には、前回の曲(リファレンス曲)を必ず確認しながら進めていきましょう。

EQ1

まずは、ボーカルの帯域を調整します。
女性ボーカルの場合は男性ボーカルよりも高い周波数になりますので、周波数を「3.16kHz」Q幅を「1.5」GAINを「+4db」に設定しました。
この処理でボーカルがしっかりと前に出てきます。

次に、ベースやキックの低域を処理します。
周波数を「62Hz」Q幅を「4.0」GAINを「+2.0db」に設定しました。
楽曲に太さと迫力が加わります。

EQ3

最後に、高域を処理していきましょう。
周波数を「11.26kHz」Q幅を「3.8」GAINを「+3.2db」に設定しました。

では、イコライザー処理をした後の楽曲を聴いてください。

マスタリングにおいてのGAINの調整は「たった0.1dbの差」でも楽曲に大きく左右します。
何度もプレビューしながら細心の注意を心がけましょう。

コンプレッサーで音の質感を整える

WAVESのRenaissance Compressorを使って、リファレンス楽曲の質感へ近づけていきます。

RCOMP-Master

Threshold「-12.0」Ratio「2.00」Attack「80.0」Release「160(ARC)」の設定にしました。

コンプをかける時のポイントとしては「オリジナルの音量と変わらない音量にすること」が大事です。
あくまで、出っ張った音をおさえる効果で使用しますので、極端に音量が変わらないように設定します。

コンプレッサーで調整した後のイコライザー処理

コンプで整えた音質をイコライザーで更に細かく調整をしていきましょう。
ここで使用するプラグインはPSP MASTER Q2 です。

Q2-1

まずは、ボーカルのヌケをさらに高めます。
周波数を「2.90kHz」Q幅を「4.00」GAINを「+1.2db」に設定しました。

Q2-2

ボーカルの高域も上げていきます。
周波数を「4.75kHz」Q幅を「5.00」GAINを「+1.0db」に設定しました。

最後に低域の調整です。
リファレンス曲と比べると低域が大人しいため、この部分を調整していきます。
周波数を「4.75kHz」Q幅を「5.00」GAINを「+1.0db」にして、かなり低域を持ち上げました。

かなりパンチ感が出たのではないでしょうか?

隠し味のマルチバンドコンプ

前回の楽曲でも隠し味として適用しましたが、WAVESのLINEAR PHASE MULTIBANDで低域のアタック感を強調します。

waves-comp

低域のみに影響が出るように設定します。
Threshold「-19.5」GAIN「0.0」RANGE(Ratio)「-6.00」Attack「180.00」Release「10.00」の設定しました。

隠し味を入れた結果がこちらです。

VU4

そして、VUメーターが「-7dbから-5db」になるように調整して完成です。
では、マスタリング前と後を聴き比べてみましょう。

  • マスタリング前
  • マスタリング後

前回マスタリングを行なった楽曲と聴き比べて質感が同じになっているかどうかも確認しましょう。

これで2曲のマスタリングが完了しました。
とても良いサウンドになったのではないでしょうか。

次回、最終回はSteinbergs社のWAVE LABを使ってDDPファイルに書き出します。
CDのためのマスタリングまであと一歩です。お楽しみに!



DTM解説情報をつぶやくTwitterのフォローもお願いいたします。




小嶋隆一(エンジニア・プロデューサー)プロフィール

%e5%b0%8f%e5%b6%8b%e9%9a%86%e4%b8%8001

マルチプレイヤー(ギター、ベース、キーボード、プログラミング等)であり、作曲、編曲、レコーディング~マスタリングまでマルチでプロデュース出来る日本では数少ないエンジニア•プロデューサー。

経歴は、ヤマハ音楽振興会主催第24回ポピュラーソングコンテストつま恋本戦会、第13回世界歌謡祭出場後シンガー・ソング・ライターとして音楽活動に専念するが25歳で引退。
制作ディレクターに職種を変えヤマハ音楽振興会~ソニー•ミュージック•エンタテインメントで15年に渡り実績、経験を積む。

2000年に制作/レーベル/レコーディング/マスタリングを核にしたApple Paint Factroy Ltd.を設立。現在に至るまで代表取締役兼エンジニアプロデューサーとして活動している。

エンジニア•プロデューサーの顔以外に、これまで多数のロックバンド、シンガーソングライターをアマチュアからメジャーデビューに導いた手腕も高く評価されている。
また、エンジニア・プロデューサーとしてニューヨーク•ステアリングサウンド、ロンドン•アビーロードスタジオでの仕事交流の実績もある。




[これまで手がけて来たアーティスト、作品]


●ヤマハ音楽振興会時代→作曲家:小森田実(SMAPなど実績多数)、作詞家:山田ひろし(TOKIOなど実績多数)育成


●ソニー•ミュージック•エンタテインメント時代→the brilliant green、フラワーカンパニーズ、To Be Continued、センチメンタル•バスザ•ハミングス(現在秦基博のサウンドプロデューサー上田禎在籍)、Continental Breakfast(サウンドプロデューサー西岡和也在籍)、miyuki、CALL、The Bluck、BLue-B、朝日美穂他多数アマチュアからメジャーに導き制作プロデュースを行う。


●2000年以降→Wyse(ワーナーミュージック•ジャパン)、Walrus(テイチクエンタテインメント、ブンブンサテライツのサウンドプロデューサー三浦カオル在籍)、CLOUD(クラウンレコード)、川嶋あい(インディーズ盤3部作制作マスタリング)、サスケ(育成)、手嶌 葵(デビュー前デモCDマスタリング)、Cube Juice(ビクターエンタテインメント)、サカヒカリ(コナミ・エンタテインメント)、Great Adventure(EMIミュージック)他多数。




[コラボレーション]



●
ジャスティン・ノズカ(カナダ)(EMIミュージック)→2nd Album国内盤ボーナストラックのミックス、マスタリング担当。
The Accelerators(Italy)デビッドビアンコプロデュース作品→1st Album全曲マスタリング担当。
町田康→新潮社朗読CD「そこ溝あんで」編曲、録音、ミックス、マスタリング担当。




●アニメ作品

峰倉かずや作品「私立荒磯高等学校生徒会執行部」の主題歌、エンディング曲の作曲、編曲、録音、ミックス、マスタリング担当。



[最近の作品]


The Captains、Go Go Vanillas、The Twenties、Paper Syndrome、藤岡正明、リトルタートルズ、URBANフェチ、加藤登紀子、長田勇気、上野まな等全アーティスト編曲、録音、ミックス、マスタリング担当。
また、K-POPアーティストBTOB、Girls Dayの日本盤CD何も2015年リリース作品の制作ディレクションを担当。
2017年公開の映画『まっ白の闇』(日本芸術センター第9回映像グランプリ グランプリ作品)
サウンドトラック担当(作曲、編曲、録音、ミックス、MA担当)。
主題歌『Look For The Light/歌 夕蘭(れりあ)』サウンドプロデュース担当。
Shun Kikuta & BLUES COMPANY、2018年リリース最新アルバム、録音、ミックス、マスタリング担当。

WEBサイト : http://www.apf.co.jp